『Standing on the Shoulder of Giants』


2000年発表。

Oasisの4thアルバム。


まず、本作はこれからOasisを聴こうという人にはお勧めできない。

前作の酷評、ブリットポップの終焉、メンバーの脱退…バンドのキャリアの中では最悪の時期であり、それらが作品にも暗い影を落としている。無論、初期のキラキラ感も合唱できるアンセムもない。


また、バンド内のバランスの変化も見て取れる。例えば、初めてリアム作の曲が収録されていたり、ノエルボーカルがアルバム中に2曲あったり(これまでは1曲が最多)という点だ。ノエルが書いてリアムが歌う、というOasisの大原則が本作から徐々に崩れていく。


しかしながら、アルバム全体に漂うシリアスでサイケな雰囲気、いわば"OasisらしくないOasis"はなかなか貴重であり、個人的にはすごく好きなのだ。


まず冒頭の"Fuck In the Bushes"。かの有名なワイト島フェスティバルから音声をサンプリングしたインスト曲だ。荒々しいドラムから始まり、ギターとコーラスの絡みが高揚感を誘う。後期ライブのオープニングの定番となっている。


そのまま間髪入れずに"Go Let It Out!"へ。この流れがたまらない。そしてリアムの気だるいボーカルにメロトロンが乗っかってくる。正直、艶のあるリアムの声が聴けるのはこのアルバムまでと思っているが、少ししゃがれてエッジの効いた感じがまた良いのだ。Oasisで好きな曲を挙げるとすれば、必ず入る1曲である。


4曲目の"Put Yer Money Where Yer Mouth Is"では珍しくノエルとリアムのツインボーカルが聴ける。私の記憶だと、はっきりとしたツインボーカルはあと2曲くらいしか無いはずだ。また、この曲のイントロが「けいおん!劇場版」で流れた時は驚いた。Oasisの中でもマイナーなアルバムのさらにマイナーな曲を選ぶあたり、スタッフは相当マニアだな、と思ったものだ。


そして、最もアルバムの空気を投影しているのが6曲目の"Gas Panic!"だ。イントロの無機質なギター、度々挿入される不気味な機械音。陰鬱なメロディに乗せて、リアムの声もどこか感情を失っているように聴こえる。


"俺の敵は皆俺の名前を知っている"

"もし窓を叩く音が聞こえたら"

"膝をついて祈った方がいい"

"パニックがもうすぐやってくる"


歌詞もダウナー全開だ。曲自体はとてもクールなので、最近リアムがライブで取り上げているのが嬉しい。


ラストは壮大なゴスペル調のバラード"Roll It Over"。ファンの間では「裏Champagne Supernova」 と言われるとおり、後半にかけて盛り上げる構成はノエルのお家芸だ。しかし、個人的には終末観漂うメロディとボーカルが際立つAメロが白眉だと思っている。若い頃の最後の輝きのようなリアムの声は儚くも美しい。いつもこのAメロを聴くたびに胸を打たれるのである。


ここまで何曲かピックアップしてきたが、ボートラを含め他も佳曲揃いだ。流石は稀代のメロディメイカー、ノエルといったところだろう。リアムも処女作ながら健闘しているが、バンドへの本格的な貢献は次作以降となる。


繰り返しになるが、本作はこれからOasisを聴こうという人にはお勧めできない。一周回って良さがわかる、そんなアルバムだと私は思う。もし1stから順番に聴いてここまで辿り着いたならば、どうかスルーせずに一度聴いてみてほしい。その上で、各々がこのアルバムの存在価値を決めれば良いと思うのだ。



"Go Let It Out!"




"Gas Panic!"