彼女はアルバートさん達と食事をとった後アニーと共にレイクウッドのお屋敷に戻った。アニーは今晩、彼女の部屋に泊まる事になったのだ。久しぶりの2人っきり。もちろん花が咲いたのはガールズトークだ。

『アニー、新婚旅行はどうだったの?』

 ポニー先生が亡くなる1年位前に、アニーとアーチーは結婚していた。新婚旅行も行ってきたのだが、帰ってきてすぐにポニー先生が体調を崩してしまった為に彼女は話を聞くタイミングを逃してしまっていたのだ。

『キャンディったら…。』

 アニーは顔を真っ赤にしていた。彼女はそんなアニーをニコニコとしながら見つめていた。アニーはもう、と呟くと恥ずかしそうに俯いた。

『いいじゃない、アニー。私達の仲じゃないの。』

『楽しかったわ。海の見える絶景のホテルで…。久しぶりに2人でゆっくりと過ごせたわ。ラガン兄弟もいないし…、エルロイ大叔母様もいないし…。とても幸せだった。でもアーチーったらね…

 彼女は恥ずかしそうに、そして幸せそうに語るアニーを羨ましく思った。ひと通り聞きたい事を聞きおえると彼女は満足気に頷いて

『よかったわね、アニー。羨ましいわ。…あーぁ、私にもアーチーみたいな人がいたらいいのに。』

 と言った。するとアニーは少女の様な甘い顔から真面目な顔になって言った。

『キャンディ…。あなたはどう思っているの?あなたはどうするの?』

『アニー…何を?思ってても私は行動してもいい立場でもないし、考えても仕方ないわ。そんなことより…。』

 彼女はアニーの真剣な眼差しが怖かった。彼女を射抜く様に見つめるアニーの瞳には確かに強い光が宿っていた。もう昔の様な弱々しさは感じられない。彼女は思わず瞳をそらしてしまった。

『キャンディ、瞳をそらさないで。あなたは行動するべきなのよ。考えても仕方がないですって?あなたには考える権利があるのよ。ねぇキャンディ。さっきのあなたの言葉を返す様だけど私達の仲じゃないの…。あなたにはなんだって話してきたわ。アーチーにもパティにも言えない事だってポニー先生やレイン先生に言えなかった事だって…!私はあなた自身の言葉で聞きたいのよ。テリィの事…。ここにはあなたと私しかいないわ。他の誰もいない。だから他の人がいる所では言えない事を言ってもいいのよ。』

 アニーは彼女の真正面に座って言った。彼女は少し俯きながらぽつりぽつりと話し始めた。

『愛しているわ。あの日の夜からずっと後悔していたのよ。あの日、スザナが足の怪我をたてに脅してるって聞いて…文句をいいに病院まで行ったの。でもスザナが自殺未遂をしたから…私が身を引くしかなかった。あのままじゃ私も幸せになれなかったと思うの。矛盾しているわね。でも、あのまま私を選ぶ様な人ならきっと愛していなかった気がするの。おかしいでしょ?アニー、あなたは手紙でスザナがしたことを卑怯だと怒ってくれたわね。私の心がどんなに楽になった事か…。もしも私が看護婦じゃなかったら…と、何度も思ったわ。生きたくても生きていられなかった人をたくさん知ってるもの。マグレガーさんに…ポニー先生…、アンソニーにステア…。彼らにも生きていてほしかった。命がもったいないわ。自殺をされる位なら私が身を引いた方がいいって…あの時はそう思ったのよ。きっと職業柄、そう考えてしまったのね。今ならもっと違う方法でスザナを立ち直らせる事を考えられたのに。1人で汽車に乗ったその直後から後悔していたわ。自分がこんなにも醜い人間なんだと気がついた。幸せを願って離れたのに、スザナの隣にいるっていうだけで嫉妬に狂ってしまったくらいよ。2人で笑っている写真を半分に切って私の隣にくっつけてもう半分のスザナの写真を、ビリビリに破ってしまった事もあったわ。でもそんな事をしてどうなるの?幸せそうに笑っている2人の邪魔をする訳にもいかない。かと言って純粋に古い友人として2人に関わる事もできない。私にはどうする事もできないのよ、アニー。最後に…テリィと約束したの。お互い幸せにならないと承知しないって…。彼は約束を守ってくれたわ。でも私は…守れないのよ。守れるはずがない。まだ愛しているのよ、彼を。』

 アニーは彼女の悲痛な告白を聞いて心が痛んだ。確かに彼女の想いの行き場はないかもしれない。それでも…

『それでもキャンディ。私はテリィの愛を信じているわ。彼は役者よ。幸せそうに笑う事くらいできるわ。あなたが彼を愛している様に、彼もあなたをまだ愛しているに違いないわよ。あなたを忘れられなくて放浪の旅に出ていったのは誰?あなたとすれ違ったと知って彼は…、市長主催のパーティーを抜け出してまで!あなたを必死に探していたのよ。そんな彼が簡単に…あなたを忘れるはずがないわ。断言できるわ。』

『ありがとう、アニー。』

 彼女は淋しそうに笑って言った。アニーはそんな彼女を見て、決心した様に呟いた。

『キャンディ、彼に一度会ってみない?あなたは無理だと言ったけど、今度…私から手紙をだしてみるわ。止めても無駄よ、キャンディ。私の独断で手紙を出すんだから。
あなたの事だと書いたらきっと彼は返事をくれるわ。』

『アニー!そんなの駄目よ!彼の新しい幸せを壊す訳にはいかないわ。あなたに迷惑をかける訳にもいかないし…、何よりそんな事をしたらアーチーに怒られてしまうわよ。こんな事を言ってもあなたはきっと出してしまうわね…。
…いいわ、私が手紙を書くから。古い友人として…。お願いだから彼に手紙を出すのはやめてちょうだい。』

 彼女はアニーの瞳をしっかりと見つめて宣言した。彼女の意志は固い。会うことはできないけど…、と内心呟いていた事はアニーには内緒だ。アニーはそんな彼女の、固い決心を聞いて安心した様に笑った。

『分かったわ、それでこそキャンディよ。あなたが決心をしてくれてよかった。』

 2人は少しの間笑い合うと時計を見た。もう3時だった。

『そろそろ寝ましょうか、アニー。』

『ええ、キャンディ。おやすみなさい。』

 それからしばらくしてアニーの寝息が聞こえてくると、彼女もどきどきしながら眠りについた。