2015年以来、4年数か月ぶりの“梅田芸術劇場版”『CHESS THE MUSICAL』上演まで、いよいよあと数日と迫った。『CHESS』は、劇団四季『マンマ・ミーア!』のように頻繁に上演されているわけではないので、梅田芸術劇場主催の『CHESS IN CONCERT』日本ヴァージョンを観た人や、2014年“東京インターナショナルプレイヤーズ版”『CHESS』、2015年“梅田芸術劇場主催”の『CHESS』、あるいは、海外で『CHESS』に触れたファン除いて、多くの方々が「『CHESS』って何だっけ?」と思われていることでしょう。 そこで“毎回恒例の『CHESS』って何だったけ?特集”を、今日、明日と二回にわたり当サイトで披露したいと思います。
なお「スコア」(あらすじなど)は筆者が1986年にロンドンで観た『CHESS』をベースとしていますので、ご了承いただきたく存じます。
まず、登場人物。
『CHESS』海外での配役&今回の日本公演の俳優 *以下、敬称略
★アナトリー・セルゲイフスキー:ソ連のCHESSチャンピョン、既婚者 (ラミン・カリムルー、Ramin Karimloo)
★フローレンス・ヴァッシー:フレディのセコンド兼秘書兼恋人、やがてアナトリーと恋に落ちる (サマンサ・バークス、Samantha Barks)
★フレデリック(フレディ)・トランパー:現世界CHESS・チャンピョン、アメリカのCHESS・チャンピオン (ルーク・ウォルシュ、Luke Walsh)
★アービター(審判員):ワールド・CHESS・チャンピョンシップの審判 (佐藤隆紀、Takanori Sato)
★スヴェトラーナ・セルゲイフスキー:アナトリーの貞淑な妻、第一幕では原則、出て来ない。
★ウォルター・コーシー:アメリカのマーチャンダイザー兼フレディのエージェント、グローバルテレビジョンの司会者。
★モロコフ:アナトリーのセコンドでソ連KGB 。
◆第一幕大意(ストーリー)
『CHESS』は主催者(ディレクター・プロデューサー)により「設定」も「曲のセレクト」も違います。ここでは最もわかりやすい流れを列挙します(ベースは前述通り、筆者が1986年観劇した『CHESS』ロンドン公演)。
ここは1979年のメラノ。 70年代後半の『米ソ冷戦』のさなか、イタリアのチロル地方の町、メラノで『ワールド・CHESS・チャンピョンシップ』が開催されようとしていた。現世界チャンピオンはアメリカのフレデリック・トランパー、対する挑戦者はソ連のアナトリー・セルゲイフスキー。さあ、決戦は如何に!?
どちらのプレイヤーにも大勢の支援者がいるが、その中には政治目的の者や、賭け目的の輩もいる。実に多彩な人間がこの大会に絡んでいるのだ。フレデリック・トランパー、通称“フレディ”のグループのリーダーは、恋人でハンガリー生まれのイギリス人、フローレンス・ヴァッシー。フレディのエージェントであるウォルター・コーシーもチームの一員だ。一方、アナトリーの一団のリーダーは、ソビエト政府KGBのアレクサンダー・モロコフで、この選手権を利用してソビエト共産(社会)主義者をなるべく多く世界に向けて産出するようTOPから命じられていた。CHESSの神聖な戦いは、プレイヤーのしならないところで、“米ソ冷戦”そのものに利用されようとしていた。 だがここで忘れてはいけない人物がもう一人いる。知的スポーツであるCHESS選手権は、無情なまでに審判員(アービター)がゲームを支配するのだ。アービターは妥協を許さない強気な男だ。「私は審判、私の言葉は法律」。アービターが、古代CHESS・ゲームの起源や歴史を説明し、メラノでの世界選手権の開幕を高らかに告げる。
“米ソ間のプロパガンダ競争”には全く気が付いていない純粋で、素朴なメラノの人々。彼らは、この『CHESS』選手権を通して、自分達の街を世界中の人々に紹介できるのを楽しみにしていた。だが、この純粋な歓待ムードも、フレディとその一団が到着すると一変する。フレディは、あのテニス界の風雲児“ジョン・マッケンロー”を髣髴させるように物議をかもす問題発言を次々に発する。その度に、人々はフレディに注目し、それはいつしか、‟フレディの奇行”として人々の目に留まるようになる。フレディは、この選手権で自分が悪役を演じることにより、いっそう人々を楽しまさせることができると思っているようだ。普段はおとなしいメラノの人々。せっかくの自分達の街を世界に正しく発信できるチャンスを得たと思ったにも関わらず、それが叶わないと知るや否や自分達の街を賞賛する歌の披露を終わらせてしまったのだ。
フレディの挑発的な戦略に対するメディアの反応について、フレディとフローレンスはホテルの部屋で話し合う。フローレンスは、次に記者会見があっても‟反ソ的な発言”を控えるようにフレディに懇願するが、フレディは聞く耳持たない。そしてあろうことに、世界中から記者が集まる会見で、フレディはフローレンスのアドバイスを忘れて記者を殴ってしまう。ああ、なんてことだ。世界的権威の大会の前に暴力とは……。だが、フローレンスはそんなフレディの常軌を逸した行動に驚嘆しながらも、フレディの退場後、いつもと変わらず姿勢で彼を弁護する。「私がいないとフレディは……」まるで「母と子の」関係のようだ。
アナトリーとセコンドのKGBモロコフは、ホテルのテレビでこのフレディの奇怪な行動を観ていた。モロコフはフレディが正気ではないとフレディを切って捨てる。しかしアナトリーの考えは違った。フレディは、試合前に上等な手段を講じて、騒ぎを起こしているだけなのではないか?これは私(アナトリー)を迷わせる心理的作戦ではないか?と考える。モロコフは、あのイカレタ、フレディを動揺させる為には恋人のフローレンスを利用するのが最も有効的だとアナトリーに進言する。しかし、CHESSに集中したい真面目なアナトリーは、そうしたバカげた戦略は自分の意に反しているとモロコフに反論する。彼は、モロコフを部屋から追い出す。一人になったアナトリーは、この状況をじっくり考える。
試合前の準備は進み、両者の代表者が選手権会場に集まって挨拶を交わした。フレディとアナトリーの姿勢全く違った。友好関係を維持するのが精一杯であったが、アービターがようやく両者をとりなす。アービターは基本のルールを取り決め、試合の成功のために全員を協力させようと試みる。一方、マーケティング目的でここに来た、ウォルター・コーシーが一番興味を持っているのはこの盛大な競技会を利用して、ビジネスを成功させることだけであり、アービターの尊大な言葉とは対照的に、様々なCHESS商品を紹介する。そして、彼はこの競技会をテレビで世界にむけて発信する。全てはマネー、マネー、マネー。 第一戦が始まった。両者の戦いは厳かに行なわれているように思えたが、またもやフレディが暴れ出す。彼はあろうことか『CHESS』盤をひっくり返してしまったのだ。ああ、なんてことを……。会場はどよめき、悲嘆にくれ、あるいは怒り心頭で混乱し、大騒ぎになる。アービターは騒ぎを静めようとする。モロコフとフローレンスを急いで呼び寄せて話し合い、まだ会場に残っていたアナトリーも話し合いに加わる。フローレンスは、二人のソ連人からの批判に対してフレディを誠実に弁護するが、アナトリーとのやり取りにはなぜか暖かい空気がある……。どうしたと言うのか?
フローレンスとモロコフはホテルに戻って話し合う。どちらも試合の再開について心配しているものの、すぐに激しい言い合いになる。それは、フローレンスが自分の過去を話し始めたからだ。1956年にハンガリー動乱の際に国民がロシアに何をされたのか、幼少時に自分の家族に何が起こったかを話し、ロシア人は大嫌いだとモロコフに反ソ姿勢を示す。彼女は母親と国外に逃亡し、父親は行方不明でおそらく死亡しているのだろうと嘆く。やがて本題に戻った二人は、フレディとアナトリーに『山のホテル』でオフレコの会談をさせることで同意する。だが、フレディはフローレンスの持ちかけた交渉には気が進まなかった。それよりも、試合中の退場を理由にウォルターがエージェント手数料のアップを要求したことの方が大事だと言いだす。フレディは、フローレンスが相手側、特にアナトリーと親密になってきていることを罵倒し、二人は激しい言い争いをする。フレディの悪意に疲れ果てたフローレンスは、ふと気付くと、これまでの人生のあらゆる局面に思いを巡らせていた。 それでも、フローレンスは状況を立て直すことができるのではという望みを捨てず、山での会談に出かける。会談にはアナトリーは来たが、フレディの姿はない。最初はかみ合わなかったフローレンスとアナトリーの会話は、徐々に親しみを帯びてくる。明らかに恋に落ちた二人……。その時フレディが、最悪のタイミングで現れる。二人の様子を目の当たりにして怒ったフレディは、試合には戻るがもう友達でも何でもないとフローレンスに言ってのける。
試合が再開された。アナトリーが5勝1敗と試合を優位に進め、フレディを追い込む。アナトリーの勝利は事実上確定する。6勝した方がタイトルを獲得するのだ。失意のフレディは、最終戦の前に、またもやフローレンスと言い争いをする。翌日、両プレイヤーが試合に登場するという時になって、フレディは試合を棄権する。だが、それよりも大騒ぎになったのは、新世界チャンピオンとなったアナトリーが姿を消し、西側への政治亡命を求めているという驚きのニュースだった。 アナトリーは、フローレンスを連れて亡命のために英国領事館に現れる。妻子をモスクワに残していくことを認めさせようとする領事館職員とのやり取りに、アナトリーが奮闘している間、フローレンスは、ほとんど何も知らない男と人生をすっかり変えるような行動に出た状況を理解しようともがく。そこに突然、アナトリーの行動をかぎつけたマスコミが現れる。ウォルターが情報を漏らしたのは明らかだ。アナトリーは、祖国を捨てるのではないと否定するが……。
*『CHESS』スコア参照 第一幕終了、続く
なんとなく「第一幕」のニュアンスは掴めたでしょうか? 結局、登場人物は各人各様『ワールド・CHESS・チャンピョンシップ』を通して、自分にとって有利なことばかりしているのです。 フレディは「メディア」とバトルし、『CHESS・世界チャンピョン』の権威もそっちのけ。挙句の果てには試合を放棄!おまけに大事な恋人フローレンスをアナトリーに奪われてしまいます(それとも神にしくまれた「罠」か!?)。 フローレンスは、ワガママな子供心を捨て切れないフレディに愛想を尽かし、敵国ソ連のCHESS・チャンピョン、アナトリーと恋に落ち、アナトリーがソビエト(当時社会主義国)からイギリス(自由主義国)に亡命するのを手助けします。つまりフローレンスは、フレディを捨て、新恋人アナトリーと「新しい生活」を始める決意をしたのです。 アメリカ陣営のウォルターは「グローバル・テレビジョン」の司会者でもあり、マーチャンダイザーでもあります。この『ワールド・CHESS・チャンピョンシップ』をアメリカ「グローバル・テレビジョン」の「独占放送」にすることにまんまと成功し、視聴率を上げるためには手段を選びません。また『ワールド・CHESS・チャンピョンシップ』を観に来た人たちに、CHESSに絡んだグッズを大量に売りつけようともくろみます。 他方、敵国ソビエトのチャンピョン、アナトリーのセコンドでKGBのモロコフは、この『ワールド・CHESS・チャンピョンシップ』を利用して自分の「立身出世」を成し遂げようと奔走します。しかし、アメリカの世界チャンピョン、フレディに勝利したアナトリーがまさかの「亡命」に走り、自分の身の危険を感じます。ですが、頭のいいモロコフは今回のアナトリーの亡命を全部、部下のせいにし、難を乗り切ります。 そして残るはアナトリー。彼は純粋に『CHESS』をするためにメラノに来たはずなのに、米ソの様々な人たちの勝手な振る舞いに巻き込まれ、結局は祖国に居る妻子を捨て、まさかの敵国アメリカのフローレンスと恋に落ち「亡命」してしまいます。 一番冷静でいるはずのアービターは「自分こそルール、自分こそ正義」と言ってのけ、この『ワールド・CHESS・チャンピョンシップ』は自分がいるからこそ成り立っているのだと誇らしげに自慢します。畏怖堂々とした態度とはまさに彼のことを言うのでしょう。
第一幕では、各人が何をしに、メラノにやってきて、結果どうなったかが描かれています。 この辺りを押えておくだけで、『CHESS』の第一幕の理解は十分だと思います。
チケット情報:
【梅田芸術劇場メインホール】
2020/1/25(土)~2020/1/28(火)
料金S席 13,500円 A席 10,000円 B席 7,000円 (全席指定・税込)
問い合わせ:梅田芸術劇場メインホール:0570-077-039
◆チケット取り扱いhttps://www.umegei.com/schedule/838/ticket.html#place936
【東京国際フォーラムホールC】
2020/2/1(土)~2020/2/9(日)
料金S席 13,500円 A席 10,000円 (全席指定・税込)
問い合わせ:梅田芸術劇場 0570-077-039
◆チケット取り扱いhttps://www.umegei.com/schedule/838/ticket.html#place936