電子書籍で出版した「網走五郎・神社物ま」今日の掲載は(28) 宮司とも揉める。
五郎は下地純一宮司とも揉めていた。宮司は高齢ではあったが容赦しなかった。勤め始めて暫く過ぎたある日、下地宮司が言った。
「君は飲み屋で自分のことを、宮司と言っているそうだな」
五郎は身に覚えがないので否定した。しかし下地は
「証人がいる、嘘をつくのもいい加減にしろ!」と、怒鳴った。
五郎の闘争心に火がついた。五郎は自席から立ち上がって言った。
「誰が言ったのか証人を連れてこい!」
すると下地が叫んだ。
「殴るんなら殴れ!」
「よし、殴ってやる」
五郎は右手で下地の襟首を掴み、暫らく引きずり廻した後、左腕を振り上げた。
この時、傍で見ていた金城勝一の奥さんハルが「やめなさい!」と叫び、二人の間に割って入った。寸でのところで殴らずに済んだ。
「俺が宮司と言っているとは誰から聞いたのですか」
「国吉次郎から聞いた」
国吉とは、五郎が飲酒運転で捕まった時、五郎の車に同乗していた神主である。国吉と五郎は飲酒運転で捕まるまでは、よく二人で飲み歩いていた。
ある日、国吉行きつけのバーでママから職業を聞かれた五郎は「神主」と答えた。これを国吉は故意に「宮司」にすり替え、下地に伝えていたのである。無資格で神主をしている五郎への嫌がらせであった。
下地は五郎の説明で国吉から再度確認することを確約し、その後国吉の嘘が分かり解決した。
それにしてもハルが間に割って入っていなければ、本当に殴っていたところだった。
ハルの目には涙が光っていた。
『この神社には俺に辞めて欲しくないと思っている人がいる』
五郎の喧嘩癖は、この日を境に徐々に 治っていった 。