電子書籍で出版した「網走五郎・神社物語」、今日の掲載は(27)  賽銭ドロ。

 

   五郎が神社に勤務しはじめた当初、賽銭ドロが頻発していた。五郎は、それが許せなかった。

   ある日『今日こそは必ず捕まえてやる』との強い決意で、御社殿にサマーベッドとバットを持ち込み、横になりながら不眠で監視を始めた。

   配置に就いて5時間が過ぎた午前三時十四分、ついに泥棒が現われた。賽銭箱を手慣れた様子で開け始めた。そこを見計らって五郎は御社殿から飛び出した。

「オイ!」

   賽銭を漁っていた男に声を掛け、襟首を掴んで立たせ巫女室へ連れていった。椅子に座らせ、バットを顔面に差し向け「逃げたら、叩き殺すからな」と言いながら110番通報した。10分後、八名の警察官が駆けつけた。

   五郎も豊見城署に同行し供述調書に立ち会った。

「犯人は抵抗しませんでしたか?」

「逃げたらバットで叩き殺すと言ったので、全く抵抗しませんでした」

「神に仕える人の調書に、バットで叩き殺すはまずいな」

   警官の呟きが聞こえた。

   清書された供述調書を確認するよう渡されたが「バットで叩き殺す」の言葉はカットされていた。