電子書籍で出版した「網走五郎・神社物語」、今日の掲載は (22)正階試験に合格。
権正階を取得してから二年ほど過ぎた夏、大阪国学院の担任の先生(主事兼講師)野口太郎が夫婦で沖縄旅行に訪れた。
野口は五郎に言った。
「私が応援するから、上の正階の階位を取得しなさい」
正階資格は大阪国学院では取得できず、神社本庁の試験を受けなければならない。
五郎は、野口の「私が応援するから」の言葉にほだされて受験することにした。
実は大阪国学院での中間テスト・期末テストでは、試験の前に野口が「匂い」と称して、生徒に試験にでる問題に近いものを教えてくれていたのである。当然、正階試験の時にも「匂い」が教えられるものと思っていた。
野口から受験に必要な色々の参考書が五郎のもとに送られてきた。
平成2年9月、薦めに従い五郎は受験した。試験科目は神社神道概説、祭祀概説、神道神学、神道文献、神典購読、延喜式祝詞、神社祭式同行事作法、祝詞作文、世界宗教概説、哲学、心理学、国文、漢文の13科目。
いつもの試験のつもりで臨んだ。しかし合格したのは僅か1科目。
『そんな馬鹿な!』
正階試験の問題は大阪国学院で作成するのではなく、神社本庁が作成したもので、野口の手の届かないところにあり「匂い」は無かったのである。
人間には失敗した時、諦めてしまうタイプと逆に闘志を燃やすタイプがある。五郎は後者だった。
この試験は年2回行なわれ、5年の間に全科目合格すれば、資格がとれる。五郎は悔しさをバネに翌日から、死に物狂いで勉強を始めた。
半年後の試験では8科目に合格、さらに半年後、残り4科目中3科目に合格、最後に残った延喜式祝詞はテキスト一冊すべてを丸暗記して試験に臨み合格した。
これまでの人生で、五郎がこれほど真面目に勉強したことはなかった。
合格してから一週間ほど過ぎた時、三重県神社庁に転勤になっいた元沖縄県神社長庁 吉田玄蕃から次の手紙が届いた。
《 冠省 神社本庁の庁報(若木)をみて、貴君が、この度、神職資格正階の検定合格を得たとの発表を見ました。思えば長い努力の途でしたね。お目出度う。良く頑張ってくれました。早く、実習を終えて正階々位証の授与を受け、正階の神職として沖縄のために頑張って下さい。一筆、御祝いまで。 吉田玄蕃 》
昨日の敵は今日の友。門前払いをした吉田は、その後五郎の最大の支援者となっていたのである。