* 第3話 病院の屋上にきていた。 雪が降ったあの日、ゆいは言ったよね。 ゆいの大好きな春を待ちわびて、 「 来年も、再来年も、 ずぅっとふたりで一の坂川の桜を見に行こうねっ。」 って。 今思えば、自分の病と向き合いながら、 ゆいは懸命に生きようとしていた、 そして、その先にきっと未来があることも信じていた。 僕は悔しくて悔しくて、 何度も何度も、握りこぶしを壁にぶつけていた・・・ ここから見える場所、どこを探してもゆいがいないこと。 僕を支えてくれたゆいがいないこと。 僕はこれからどうしたらいいのだろう・・・ゆい・・・? 屋上から見える夕日が西の空をアカク染めていた・・・・ 「 ゆ い 」 と呼べば、 ゆいの振り返る姿が見えるような気がした 完全に日が暮れて、はじめて、僕はゆいの家へ向かった。 ・・・・・・・・ゆいはきっと ・・・僕をまっている・・・・・・ ゆいの家の前に着くと 黒と白にいったいなんの意味があるのか・・・ わからないけれど・・・ おじさんと おじさんに抱えられているおばさんに挨拶をして ゆいがいる場所を 探さなくてもすぐわかる 目の前の現実を 僕は必至て受け入れようとしていた。 眠ってなんかいないってわかっているけど 瞳を閉じているゆいは、少しほっとした顔に見えた。 『 がんばって、疲れちゃった。 』 って今にも言いそうなほど・・・ ぬくもりのなくなったゆいは、 それでも、きれいにお化粧もしていて、 まるで今からでも、デートにでかけそうなほど、 とってもきれいで・・・ ・・・・眠る君の唇に指でそっとふれてみる・・・・ ・・・僕のコトバは声にならなかった 淋しくなかった? 「 提灯まつり、一緒に行こうな。 」 「 ゆいは浴衣を着るんだよ・・・。 」 「 夜店でゆいの好きなもの食べよう・・・。 」 「 花火大会も一緒に行こうよ。 」 「 きっときれいな花火が見れるよ。 」 (君のうれしそうな姿が、もう目に浮かぶもの・・・。) 「 そして、桜も見に行こう。ゆいが見たがっていた桜を見に行こう・・・ふたりで。 」 だから、お願い。お願いだから、ゆい。 お願いだよ、ゆい・・・僕をヒトリにしないで・・・ お願いだよ、ゆい・・・元気だよって笑ってくれる?・・・・・ 僕は心の中で何度ゆいと叫んだだろう・・・ そして・・・・・・ ・・・・・・「俊君」 って呼ぶ君の声は、 もう・・・・・・聞こえない・・・・ 弔問客が途絶え始めた頃、 僕はひとり、ゆいの家を後にした・・・。 僕の気持ちなんか誰にもわからない・・・・ 僕の悲しさも悔しさも誰にもわからない・・・ そんな思いでいっぱいだった。 誰もいないところで僕だけのゆいを感じたかった。 ひとりで感じたかった。 そして、ゆいの家を出て、 歩いて近くの一の坂川へむかった。 一の坂川・・・そう、僕らが始めてデートをした場所だね、ゆい。 >>>>第4話はこちら |