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誰もいないところで僕だけのゆいを感じたかった。 ひとりで感じたかった。 歩いて近くの一の坂川へ向かう途中 夜・・・・ ひとり歩きながら僕はゆいを思い出していた・・・。 ・・・胸の中でキミを近くに感じていたかった・・・・ ゆいとの出会いは、中学生の時だった。 君は付属小から公立の僕らの中学に来て、 男女は違うけど、同じテニス部で、 隣のコートで玉拾いをしていた君を見た。 中学校では同じクラスになることもなく、 やはり二人の接点は部活動だった・・・・ 学校の中で仲良く話すこともなかったけれど、 練習後のテニスコートの土ならしや、 試合での応援や、 女子ボールが男子コートに入ってきた時とか、 その逆とか、 テニスボールが近くの川に落ちて探すのを手伝ったりだとか、 そんな時に挨拶を交わす程度だった・・・。 多分その頃はお互いを好きとか嫌いとかっていう対象ではなかったよね。 多分その頃はお互いに他に好きな人がいたのかもしれない・・・。 僕とゆいは同じ高校に進学して、 ゆいはまたテニス部に入った。 僕は高校三年間をきつい部活動で送るのはいやだったから、 中学の友達が多く所属していたお気楽な情報処理部の幽霊部員を選んだ。 君がテニス部でがんばっている姿を横目に早々と家に帰っていた。 それなのに、君は1年の終わりテニス部を辞めた・・・。 高校2年生で同じクラスになって、同じ中学出身ということもあって、 よく話すようになった。 そして、いつの間にか一緒に帰るようになっていった。 2年の5月のGW明け、僕から君に告白をしたんだ・・・・ ゆい・・・・ |
ふたり初めてのデートが、この一の坂川のほたる観賞の夕べだった・・・ 蛍を見に行こうって、君が僕を誘って 当日、僕らは県立図書館で待ち合わせをして、 一の坂川にある”むくの木”で、一緒に食事をした。 あの時、初めてのデートで僕が緊張していたことを君は気づいていただろうか・・・。 そして、日が沈んで、蛍が見られるまでの数時間、 僕らは、橋の上で時間をつぶした。 色んな話をしたね、ゆい・・・ お互いの初恋の話や学校の話や家族のこと、そして未来のこと。 徐々に人が増えてきて、僕らは最初に見えた小さな灯りに声を上げた。 「すご~い!きれ~い!」と言った君。 「すっげぇ!」と声を出した僕。 あちらこちらから黄色くそして緑かかった清らかな光が何度も点滅を繰り返す・・・ そんな蛍を見ながら、僕らは手をつなだ。 一つの小さな光が僕らの目の前に飛んできた。 そっと覗き込む僕ら。 小さくてそれでも一生懸命に明かりを灯しているホタルに 僕らは時間を忘れそうだった。 今のこのトキが止まってしまえばいいって思っていた・・・ それでもやっぱり帰らなくてはいけない時間がきて、 僕らは、川のほとりの道を一周して帰ることを決めた。 君はホタルに夢中だったけれど、 歩きながら僕は、君のことばかり見ていた。 うれしそうに話をする君を。 うれしそうにホタルに目を向ける君を。 ひとりで歩けば長く感じられる川のほとりの道も、 ふたりだとあっという間で、 帰り際、君は、 来年の春の話をしていたね。 今度は一の坂川の桜を見に来たいねって。 いっぱいに咲き誇った桜の下を僕と歩きたいって言ってた。 楽しそうな君の話し方に、 僕もきっと来年の春はゆいとここに来るんだと思っていた。 |
けれど、それから5ヵ月後の11月に君の入院。 病院での生活の中で12月の初雪を迎えて、 君はさらに桜を楽しみにしていた。 外で遊びたいって君はうれしそうに話していたね。 そして、3月。 桜がきれいに咲いた頃、 君の病気は、絶対安静の時期を迎えていた。 そう・・・治療のために外出なんかできなかった。 桜を見に行くと言った君に、 先生も・・・僕も・・・ 君の気持ちを思いとどめさせることで精一杯だった・・・ だって、 ゆいの治療が一番だった。君の命の方が、桜の花よりも大事だった。 桜なんて、来年も再来年もゆいが元気になればいつだって行けるって思っていたから。 元気になったゆいと一緒に見にいけるって思っていたから・・・・ 夢叶わずして、君は・・・・。 ぼくのせい・・・・だよね・・・ あっという間に一の坂川にたどり着き 残念ながら (ゆいがいるかもしれないなんて 変な期待をしてた僕がいて・・・) 深夜の一の坂川は 人影も全くなくて 静かに僕を迎え入れてくれた・・・ ごめん・・・ゆい。 あの時、君をここに連れてきてあげれなくて ごめん・・・ゆい。 それなのに、僕はひとりここに 来てしまった・・・よ もちろん桜なんて咲いていない・・・ 蛍だってもういないんだよ・・・ ごめん ゆい あの時、君をここに連れてきてあげれなくて ふたりで桜を見ることができなくて・・・ |
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