正規雇用としては、はじめての就職先。
高卒新人社員と、
専門中退新入社員の私。
勤め先で寮生活をするのは、このふたりだけ。
完全個室。
勤めはじめは、僅か2ヶ月しか、違わない。
要領よく、周囲とうまくやってるもうひとり。
食事は、勤め先での社員食堂。
社員食堂専属の調理担当のパートさんがいて、必要人数分を用意する。
寮生も、そこで必要人数にいれてもらっている。
お風呂は、勤めている宿泊施設の大浴場。
トイレは、寮に共同使用のものがあり、そこを利用する。
外面のいい、もうひとりの寮生は、寮の掃除などは、全くしない。
いつも、私がやっていた。
同じ寮暮らしでも、会話はない。
顔を合わさない。
勤め先の宿泊施設に隣接する社員寮。
ここは、海岸沿いの道路から上がったところ。
車やバイクで往き来するところ。
車でいくらか走らないと、人気はない。
業務が終わり、社員もパートもアルバイトも帰っていく。宿直と宿泊客のみとなった、宿泊施設。その脇で夜を過ごす私達。
宿泊客は騒いでいるかもしれないが、それを知るよしもない私達。
夜の静まり返ったその暗闇と静けさ、
そのなかに、耳を澄ますと聞こえる波の音。
素敵とも、
不気味とも、
どちらともとれる雰囲気。
深い眠りについたある夜、何かの気配。
「一緒に寝よ」
と、若い男性の耳元での囁き声。
びっくりして、ムクッと起き上がる私。
部屋の四隅の一角に、煙のような白っぽい何かが、まるで天に退散するかのように消えていった。
「何が起こったのか」
びっくり固まるものの、
何事もなかったかのような自室のいつもの光景。
そしてまた、眠りについた私。
ある夜の不思議体験。