私は自分から発することが、昔から苦手だ。
幼い頃は、熱を出してしんどいのに、しんどいと言えなかった。
なぜか、平静を装ってしまう。
自分だって、休みたいと思っているのに。


「なんか、おかしいな。
熱あるんとちゃうか?」


そう言って私の額に、父が、母が、手を当てる。


「ちょっと体温計!」


探すのは、
今のようなデジタルとは違い、水銀の体温計だ。


「じっとしとき❗」


脇に体温計の先を当てて、腕を閉じ、しばらく待つ。
デジタル式の電子音はない。
これくらいかというタイミングで父や母が体温計を取り、数値を読む。



「んー、●●℃やな。熱あるな。」
そう言いながら、体温計を持つ手を振って水銀を戻す。



母が、布団を引き出し、「寝とき。」
と、私は安静を促される。


体調が悪いからと言って、誰が怒るわけでもない、
むしろ心配して、いつも以上に大事にされる。


「何か冷たいものでもいるか?」
父が言う。


うなずく私。


プリンだかジュースだか、それらしいものを持ってきてくれる。口当たりよく、全て食し終えると、


「あったこうして、寝。」


と布団に潜った私の体回りを、手ではたいて、体と布団の隙間を埋めてくれる。


病気になるのも、悪くはない。
だって、両親がとても、私を大事に大切に扱ってくれるから。


なのに、


「しんどい」
の一言が、どうしても自分で発することが出来なかった。