はやしそろばんホームページへ足をお運びの皆様、ご無沙汰しております。久しく大会参戦記掲載が滞っておりましたが、老体(気づいたら社会人10年目、早いもので32歳に…。)に鞭を打つかの如く再開する事を決心しました。久々の執筆という事で脈略の無い文章になってしまうかもしれませんがご了承いただければと思います。
さて、今回執筆させていただく参戦記の舞台となる「令和6年度全日本珠算選手権大会」(以下、全日本)ですが、選手であれば誰しもが目標として掲げるであろう歴史と伝統と権威のある大会です。平成23年度大会までは全国持ち回りで開催されておりましたが、以降は京都府・国立京都国際会館での開催に固定されています。今年度大会も同会場にて華やかかつ厳粛な雰囲気の中盛大に行われました。
同門のOBでもある土屋宏明選手(永世名人)と共に、灼熱の地・京都へ向かいます。とにかく暑い…。中継地点である伊丹空港を出るや否や、地元・宮城とは比べ物にならないほどの気温の高さに少々たじろぎそうになってしまいました。暑さにうなされつつも無事に宿泊先のホテルへ到着。翌日に支障をきたさない程度の練習、夕食、入浴と、全日本だからといって特段意識することなく普段通りの大会前夜を過ごし、寝床へつきます。余計な事はせず、あくまで普段通りに…。
大会当日。タクシーで会場入り。ホテルからはそこそこ距離があるものの、お金に糸目はつけず、あくまでも体力維持優先で、芸能人を気取るかのように例年タクシーを利用しています。
私自身12回目の参加となった全日本ですが、内9回はこの国際会館で8月8日を迎えています。しかしながらこれだけ同じ会場を経験していても、荘厳な佇まいに緊張感を隠しえることが出来ないこの国際会館。音響・スクリーン等設備の充実さも去ることながら、日本一を決めるにふさわしい独特の雰囲気、静けさの中にある熱気、出場選手のそうそうたる顔ぶれ。他の大会と決して差別化するわけではありませんが、これぞ「全日本」なのでしょう。しかし、心がけることはこの二つ。平常心を忘れず、今まで自分が積み重ねてきた練習の成果を発揮するのみ。日本一熱い8月8日の幕が明けようとしています。
開会式終了後、すぐさまメイン競技である個人総合競技へ。6種目全てが封筒に入れられた状態で一括配布。緊張の第1種目・乗算。出だしで躓かないよう、問題用紙を取り出し、神経を一点に集中させ号令を待ちます。
「パリオリンピックに負けない感動を期待します。」計時をご担当された委員による壇上での一言。普段聞いたら何気ない一言かもしれません。しかし、同時期に開催されていたオリンピックに出場していた選手たちの勇姿と照らし合わせるかの如く、その場にいた選手全員の気がより引き締まったことでしょう。
「用意、はじめ!」総参加選手677名が同時に問題用紙を表に返す音。そろばんをはじく音。答えを記入する音。マニアックかつ心地よいASMRと言えます。肝心な解いている問題の感触でいったら…非常に微妙。毎年捻りのある問題が複数題ある全日本ですが、今年もまんまと躓くこととなってしまいました。全選手その日初めて取り組む問題ですので、平等な条件である故、当然言い訳なんてなし。何年たっても実力不足がぬぐい切れません。
最終種目・見取暗算を終え、運命の交換採点。可もなく不可もなく…といった感じで全種目を終えたわけですが、いざ採点終了後の問題用紙を見ると、愕然…。全日本に関してはまた来年、そして約2週間後に迫った「全大阪オープン珠算選手権大会」ではリベンジを果たすことを早速心に誓ったのでした(全大阪オープンでも、結局結果は出せずに終わってしまいましたが…)。
全選手2審終了後、例年通り1,480点以上の選手に起立が求められます。該当選手は封筒を回収されますが、今年は選手紹介までは行われず。あまりにもレベルが上がり過ぎて人数が多くなってしまい、紹介に時間を要してしまうからなのかカットとなってしまいました。
集められた封筒は会場委員によりバックヤードにて再度審査。数分後、満点による優勝決定戦があるとアナウンスが。今年は4名の満点獲得者がいるとのことですが、その中には当然のように土屋選手の姿がありました。残る1名は社会人、2名は学生。社会人2名には働いてもなお堂々と満点を取りきる類まれな精神力を、そして学生2名には若さゆえの爆発力をそれぞれ感じさせられました。そして、自分にもまだやるべきことがあると奮い立たせてくれた瞬間でもありました。他のお三方には大変失礼ではありますが、同門の土屋選手を応援することだけを考え、あとは選手席から見守るのみです。
珠算種目・暗算種目を2分30秒間で一括計算。珠算種目は21~30番程度の問題から、暗算種目は36~40番程度の問題から各5題・計30題出題され、真のスピードと正確性で競います。先に挙手したのは土屋選手。他の3選手に圧倒的な差をつけての先行挙手でした。全選手制限時間を大きく残しての挙手をされたのでこの時点で計時終了。「人事を尽くして天命を待つ」。このことわざの如く、そわそわしながら午後の表彰式まで結果を待つこととなります。
小休憩を挟み、フラッシュ暗算競技。3桁15口固定で行われ、早々と決勝進出者10名程度に絞られます。4秒から始まり、1.85秒まで連続正答した11名の選手が決勝の舞台へ駒を進めました。ここまでの時間わずか8分。私は箸にも棒にかからず、2秒で敢え無く敗退しました。
決勝問題は1.70秒からスタート。徐々に脱落していく中、1.55秒までストレートに正答を重ねた北海道・浅野貴広選手が見事優勝されました。7年ぶり3度目(違っていたらごめんなさい…)との事ですが、前回優勝した時の秒数を大きく縮められたうえで優勝されました。0.01秒縮めるだけでも至難の業となってくるレベルですが、7年という年月を経て1秒以上縮めてこられた道のりは、決して平たんではなかったことでしょう。優勝が決定した瞬間の雄叫びには、本人にしか抱けない様々な感情がこもっていた事と思います。おめでとうございます!
お昼休憩を挟み、都道府県対抗競技。私は出場せずでしたが、YouTubeにて生配信されていた白熱した大会の様子をリアルタイムで観戦していました。激闘の末、北海道(道央)が抜群のチームワークを発揮され優勝されました。おめでとうございます!
続いて読上暗算競技。桁の横幅というよりかは分割計算を行う技術が求められるでしょう。生半可な練習量では、入賞など到底手の届かない非常ハイレベルな競技と言えます。近年の競技会では読上げられる口数も5口、長くても10口がメジャー化している中、変わることなく15口で固定化されており、集中力・記憶力をも要する競技となっています。例年通り5桁~16桁加減算からのスタート。長い長い問題が読み終わり答えが読み上げられ、正答者の確認。会場を見渡すと、立ち上がっているのは1名のみ。千葉県・石黒煌也選手です。1日通して私の隣に座っていた選手でした。採点の依頼を受け〇を付けたのは、実は隣にいた私なのです。ただ〇を付けただけなのに、優勝が決まった瞬間まるで自分の事のように嬉しく感じてしまいました。何がともあれ文句なしの一発で優勝が決定。おめでとうございます!
最後の競技となった読上算競技。プロの読み手によるすさまじいスピードで読まれる数字を瞬時に聞き取り、盤面に置いていくという、計算力に加え瞬発力・聴力も重要な要素なってくる競技です。私自身も必死にくらいついていきますが、こちらも15口という長さ故、どうしても追い付かずに悔しい思いをしながら答案用紙に横線を引くことが大半でした。数題記入することもできましたが、もはや奇跡を信じてダメもとで記入したものばかり。優勝は広島県・紙野大樹選手でした。2度目の優勝とのことです。おめでとうございます!
以上をもって、全競技が終了。いよいよそろばん日本一が決まる、運命の表彰式へ移ります。
今年のそろばん日本一(全日本選手権者)は、土屋選手であると発表!2年連続・12回目の優勝でした。まさしく完璧な勝利です。年齢を重ねた今もなお第一線に立ち、勝ち続ける。彼の時代はいつまで続くのでしょうか。またそれを追うように決勝で戦った3名も大健闘。全日本に限らず、本番で満点を取りきることがいかに難しいことであるか。その概念をここ数年は毎年のように若き精鋭たちが打ち砕きつつあります。来年以降また大きく成長した姿でリベンジしてくることでしょう。私自身も年だけ取って負けっぱなしではみっともないので、まだまだ精進していく所存です。改めまして、優勝おめでとうございます!!
今年度の小学生日本一は、満点まであと一歩の1,490点。近年では満点も軽々しく獲得する選手も出てきているわけですが、末恐ろしい若きパワーに驚きを隠しえません。
表彰式も終わり、1年間待ち焦がれた全日本は、結果をろくに残すことが出来ぬまま終了。つい数時間前まで試合していたことすら疑うかのように、タクシー、バス、飛行機を乗り継ぎ、呆気なく帰路へ着きます。
さて、私自身悔しい結果で終わってしまった全日本ですが、やはり出場する事自体は楽しいです。もちろん、遊び感覚ではなくあの会場で競技するという事に関して。社会人となり出場する大会自体減ったものの、32歳ではありますがまだまだ選手として戦っていくつもりでいます。そして、まだまだ諦めません。この参戦記執筆以降、今年度残された遠征試合は「関孝和先生顕彰全日本珠算競技大会」のみとなる予定です。後輩たちと共に結果を残し、笑顔で大会を終えることが出来るよう、全力で臨んでいきたいと思います。
非常に長くなってしまいましたが、読了いただきありがとうございました。コロナウイルスもある程度落ち着きつつある中、珠算関係者の皆様とお会いする機会も戻りつつあります。またどこかの大会でお会いできますことを楽しみにしております。