Business Journal

【転載開始】

■介護離職10万人超の衝撃・・・
 知らないでは済まされない“年間93日休める制度”
 2025.10.14

 

UnsplashのJoey Huangが撮影した写真

●この記事のポイント
・公的制度として、従業員は「年間93日の
 介護休業」を取得可能。
 しかも賃金の約7割が支給される。
・2025年5月の法改正で、企業には介護支援
 の「義務化」が進行。
・介護離職は年間10万人を突破。
 人材流出防止には、企業が制度を理解し
 “辞めさせない仕組み”づくりが不可欠。

 厚生労働省によると、介護や看護を理由に
離職した人は2023年度で10万4000人。
過去最多を更新した。働き盛りの40〜50代が
中心で、企業にとってはまさに「中核層の喪失」
である。

 特に中小企業では「介護のために退職します」
と告げられて初めて事態を知るケースが多く、
制度を理解していれば離職を防げた可能性も高い。
人事労務コンサルタントの松田美里氏はこう指摘
する。

 「介護休業や時短勤務など、法律で認められた
制度を会社がきちんと周知していないケースが
非常に多い。社員本人が“迷惑をかけるから”と
辞めてしまうのは、制度を知らないことが最大の
要因です」

●目次

・勤務先に関係なく使える「年間93日」の介護休業
・2025年5月の法改正で企業義務が強化
・介護離職が「経営課題」になる理由
・成功企業の事例:トヨタ・NTT・花王の共通点
・企業側が把握しておくべき3つのポイント

■勤務先に関係なく使える「年間93日」の介護休業

 意外と知られていないが、介護休業は企業の
就業規則に関係なく、公的制度として誰でも利用
できる。

 厚労省の「育児・介護休業法」により、家族1人
につき通算93日(約3か月)まで取得可能だ。
分割して最大3回に分けて取ることもできる。

 さらに、休業期間中には雇用保険から
「介護休業給付金」が支給され、休業前賃金の
約67%(手取りベースで約7割)を受け取れる。
このため、経済的に仕事を辞める必要はない。

 しかも、有給休暇とは別に介護休暇
(年5日:家族1人につき)も取得でき、短期の
通院付き添いなどにも活用できる。

 「“うちは介護休暇なんて制度ないよ”という企業
がいまだにありますが、それは誤解です。介護休業
も休暇も“法律で定められた権利”であり、企業は
就業規則に記載していなくても対応義務があります」
(松田氏)

■2025年5月の法改正で企業義務が強化

 2025年5月に施行された法改正では、企業の責任
がさらに明確になった。改正ポイントは次の3点で
ある。

・介護と仕事の両立支援制度の説明義務化
 企業は社員から申し出がなくても、介護休業や
 時短勤務など利用可能な制度を説明しなければ
 ならない。
・個別面談・相談対応の義務化
 介護が必要な社員に対し、業務調整や在宅勤務
 などの選択肢を検討・提示する必要がある。
・残業免除制度の義務化
 介護を理由に残業を免除することが法律で定め
 られた。
 これを拒否すれば法令違反となる。

 つまり、「社員が言ってこないから対応しない」
では済まされない。
企業側の“先回り支援”が求められているのだ。

 それでも認知度は低い。
厚労省の2024年調査では、「介護休業を取得できる
と知っている」社員はわずか34%にとどまる。
背景には、中小企業における人事担当者のリソース
不足がある。

 「大企業では介護離職防止セミナーを実施したり、
社内ポータルで情報発信をしていますが、中小企業
では“知る人がいない”という構造的課題がある。
社会保険労務士や外部研修を活用して仕組みを作る
ことが重要です」(同)

■介護離職が「経営課題」になる理由

 介護離職は単なる個人事情ではない。
企業にとっては深刻な経営リスクだ。
生産性が高いベテラン層の離職は、育成コストや
知識継承の面でもダメージが大きい。
特に今は、あらゆる業界で人手不足が深刻化して
いる。

 帝国データバンクの調査によれば、正社員不足
を感じる企業は過去最高の57.2%。
その中で介護離職が進めば、採用コストの上昇と
ともに現場の負担も増大する。

 「“介護支援は福利厚生”という認識は時代遅れ
です。もはや“人材確保戦略”の一環。介護対応の
柔軟性がある企業ほど、社員のエンゲージメント
が高く、採用・定着率も上がる傾向があります」
(同)

 では企業は、どうすれば介護離職を防げるのか。
ポイントは「制度の可視化」と「先回り支援」の
2つだ。

1.社内での情報共有と相談ルートの整備

 介護は突然始まる。
親の入院、要介護認定などで、数週間で生活が
激変する。
そのため、社内イントラネットや人事面談で制度
を“見える化”することが第一歩。
また、直属の上司が制度を知らないと、相談すら
できない。
管理職研修で最低限の知識を持たせる必要がある。

2.仕事の“再設計”を前提にする

 「長期休む=仕事が止まる」ではなく、タスク
の分散・チーム体制化を平時から設計する。
介護休業中の代替人材を社内で確保できるよう、
リスキリングやジョブシェアも有効だ。

3.柔軟な勤務制度を導入する

 在宅勤務・時差出勤・短時間正社員などを組み
合わせることで、介護と両立しながらキャリアを
継続できる。
特に、ICT化でリモート管理が容易になった今、
「勤務形態の柔軟化」こそ最大の防止策となる。

■成功企業の事例:トヨタ・NTT・花王の共通点

 すでに多くの大手企業が「介護離職ゼロ」に
向けた取り組みを進めている。

トヨタ自動車:家族介護の段階に応じて、
休業・時短・在宅を組み合わせた
「フェーズ型支援」を導入。

NTTグループ:社員が介護状態を匿名相談でき
る「ケア・コンシェルジュ」制度を導入。

花王:介護経験社員が相談員として支援する
「ピアサポート制度」を設置。

 これらの企業に共通するのは、
“法定以上の制度整備”と“早期の情報共有”だ。

 田島氏はこう強調する。
「介護は“突然始まり、終わりが見えない”と
いう特徴があります。だからこそ、企業が
早い段階でサポートに入る仕組みを作って
おくことが、結果的に人材を守り、企業の
競争力にもつながるのです」

 2025年には団塊世代がすべて75歳以上と
なる。
つまり、社員の3人に1人が親の介護リスク
を抱える時代が到来している。
介護はもはや特別な事情ではなく、
「全員に訪れるライフイベント」だ。

 「企業にとって“介護離職を出さない”ことは、
これからの人的資本経営のベースラインです。
制度を知らなかった、伝えていなかった――
それはもう言い訳になりません」

■企業側が把握しておくべき3つのポイント

・介護休業は「法律で定められた権利」であり、
 勤務先の制度に関係なく取得可能。
・2025年法改正で、企業に説明・支援の義務化
 が進行。無知はリスクになる。
・介護離職を防ぐことは“人材戦略”。
 柔軟な勤務制度と早期のサポート体制づくり
 がカギ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=
松田美里/人事労務コンサルタント)

【転載終了】

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 個人的には、自身が両親の介護を16年間
続けており、(昨年父が97歳で亡くなる)
現在も96歳の母の介護が続いています。
介護の大変さを身に染みて経験しています
ので、勤めながらの介護は心身ともに負担
が大きいと思います。

 私は、数年前から″介護離職の懸念″を
書いてきました。
しかし、政府や官庁には、それほど危機感
はなかったのではないでしょうか。

 この国は、労働力の減少により、更なる
国力衰退の懸念が増した感じでしょうか。