NEWSWEEK
【転載開始】
■週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
2025年01月30日
<中居正広・フジテレビ問題に関して、
週刊文春が「訂正」を出した。「フジ社員
の関与」の有無について誤りがあったとい
うのだが、該当記事を丁寧に読むと、訂正
を出すようなものではないと分かる>
中居正広・フジテレビ問題に関して週刊文春
は28日、記事内容に誤りがあったとして
「訂正」を出した。
重要ポイントの一つであった「フジ社員の
関与」の度合いが大きく後退し、SNSや
ワイドショーでは文春への非難が相次いだ。
私もこの場を借りて、文春の対応を強く
批判したいと思う。
それは、誤報を出したからではない。
誤報ではないにも関わらず、訂正を出した
からだ。
文春は訂正を出す必要などなかった。
以下、説明する。
■決して断定はしていない
まず、文春が発表した訂正文を確認すると、
このように書かれている(<>内は引用部分)。
<【訂正】本記事(12月26日発売号掲載)
では事件当日の会食について「X子さんはフジ
編成幹部A氏に誘われた」としていましたが、
その後の取材により「X子さんは中居に誘われ
た」「A氏がセッティングしている会の"延長"
と認識していた」ということがわかりました。
お詫びして訂正いたします。また、続報の#2
記事(1月8日発売号掲載)以降はその後の
取材成果を踏まえた内容を報じています。>
訂正文では<『X子さんはフジ編成幹部A氏
に誘われた』としていました>とあるが、
該当記事(12月26日発売号掲載の記事)を
何度読んでも、そこまで断定的には書かれて
いない。
記事ではまず、文春に先んじて第一報を
報じた『女性セブン』を間接的に引用し、
こう書いた。
<記事によると、2023年にX子さんは中居、
フジテレビの編成幹部A氏と3人で会食する
予定だったが、A氏がドタキャン。彼女と中居
は2人で会食することになったが、そこでトラ
ブルが発生。>
トラブルが起きた日の出来事を記しているが、
ここでは会食について「A氏がX子さんを誘っ
た」とは書かれていない。
誰がX子さんを誘ったかは、これを読んだだけ
では分からない。
別の段落では、X子さんの知人がこう証言し
ている。
<「あの日、X子は中居さん、A氏を含めた
大人数で食事をしようと誘われていました。
多忙な日々に疲弊していた彼女は乗り気では
なかったのですが、『Aさんに言われたから
には断れないよね』と、参加することにした
のです」>
<「飲み会の直前になって彼女と中居さんを
除く全員が、なんとドタキャン。結局、密室で
2人きりにさせられ、意に沿わない性的行為を
受けた。『A氏に仕組まれた』と感じた彼女は、
翌日、女性を含む3名のフジ幹部に"被害"を訴
えているのです」(同前)>
これを読むと確かに(あっ、X子さんはAさん
に誘われて中居の家に行ったっぽいぞ)と思っ
てしまう。
だが、断定はできない。
これらの文章から読み取れるのは、
「『X子さんは会食にA氏から誘われたと認識し
ていた』と知人が言っている」ということだ。
■意図的に「誤認させた」可能性
少し話がややこしくなってきたので、例を
あげて説明したい。
これから述べるのは無根拠な憶測ではなく、
現時点で報じられている内容に基づいた推測
の一つである。
たとえば、中居正広とX子さんの間に、
以下のようなやり取りがあった可能性が考え
られる。
やり取りは電話だったかもしれないし、
LINE等だったかもしれない。
中居正広本人ではなく、マネージャー等が
連絡を取った可能性もある。
あくまでも一例、一つの可能性としてお読み
頂きたい。
中居「週末にAさんと一緒にみんなで飲み
会やるんだけど、X子さんも来ませんか?」
X子「Aさんも来られるんですか?」
中居「うん、Aさんが『みんなで飲もうよ』
って言ってて、X子さんにも是非来て欲しい
んだって」
X子「分かりました。私も参加します」
そして、当日の集合時間直前に中居がX子
さんに対して「ごめん、今日は大雨のせいで
Aさんは来られなくなったみたい」と伝えた
としたら、X子さんの脳内でA氏の立ち位置
はどうなるだろう。
(Aさんに騙された!)と思い込み、そう
誤認してしまうのではないか。
このように中居がX子さんに嘘をつき、
A氏が関与していると誤認させた可能性が
あると私は見ている。
あるいは、ここまで露骨でなくても「いつも
通りAさんのセッティングした会なのだろう」
とX子さんが思い込み、中居も敢えて説明し
なかったのかもしれない。
直近のバーベキューもA氏から誘われており、
X子さんから見れば、中居とA氏は常にセット
で動いている。
実際、事案の発生した翌月には、入院中のX子
さんのもとをA氏が訪れ、中居からの見舞い品
を持ってきたという。
記事を読むと、A氏が会食をセッティング
したのではないかという疑惑を非常に強く感じ
る。
恐らく、X子さんの頭のなかではそう認識され
ており、知人に対してもそのように話したの
だろう。
知人の話を聞いた文春記者も、その可能性が
高いと考えたに違いない。
だが、記事を最初から最後まで何度読んでも、
「A氏がX子さんを誘った」と明言する文章は
ない。
書かれているのは、A氏の関与を強く疑わせる
知人の証言だけだ。
そう考えると、文春の出した訂正文はまった
く不正確であり、私から見れば「訂正の訂正」
を出すべき事案と言える。
■グレーを黒と決めつける人々
記事はあくまでも「フジ社員が関与している
疑惑」を報じたに過ぎない。
それを勝手に「フジ社員が関与していた!
(断言)」と読み替えたのは、SNS上の人たち
である。
彼らは有料媒体である週刊文春に1円も金を払わ
ず、タイムラインに流れてくる断片情報や伝聞、
偏頗な見解や偽情報やらを適当にくっ付けて
速断する。
ゆえに、文春記事をちゃんと読めば「疑惑レ
ベル」と分かるものが、SNSの腐海に浸って
いると分からなくなってしまう。
こうして誤読する人々が一定量を越えて来ると、
もはやSNS上では「フジ社員が会食をセッティ
ングした! 文春にそう書いてある!」という
極端化した言説が大勢を占めるようになる。
そうなるともう、該当記事は「フジ社員が
関与したと書いてあるもの」として人々に認識
されてしまう。
断定などしていないのに、断定したと曲解され
てしまう。
ゆえに、曲解する人々に向けて訂正を出さねば
ならない事態となったのだ。
すなわち、文春編集部はSNSにはびこる衆愚の
餌食となったのである。
「白」と「黒」の2パターンしか識別できない
集団に、グレーのものを見せてはいけないのか
もしれない。
飲食業界では「良い店は良い客が育てる」と
言われるが、メディアも同じである。
味も作法も分からないドケチな客が押し寄せて
きたら、どんな良い店でもおかしくなる。
変な食べ方をする人に向けて、不必要な注意
書きを貼ることになるだろう。
今般の文春の訂正騒動は、それと同じことでは
ないだろうか。
訂正記事を出したきっかけは、橋下徹からの
指摘だという。
ネット世論を知悉する稀代の切れ者に訂正を
出すべきだと滔々と迫られ、言いくるめられて
しまったのかしらんと私は思っている。
■「たかが」と「されど」の間
とはいえ、ここ数年は文春のイメージが異常
なほど高止まりしており、今回の騒動は良い冷
や水になったようにも思う。
「もっと裏取りをしてから記事を出せ」と
訳知り顔で批判する声も多いが、十分な裏取り
をした信憑性の高い記事だけ読みたいという人
は、週刊誌など読まないほうが良い。
そういう方々には日本経済新聞や朝日新聞、
読売新聞といった一般紙の定期購読を強くお勧
めする。
ネットニュース全盛となった今、読み手の
メディアリテラシーは恐ろしく低下している。
リテラシーなんて言葉がなかった紙時代の読者
のほうが、リテラシーは自然と保たれていたの
ではないか。
紙のスポーツ新聞で、あの巨大なド派手
フォントで「ネッシー発見」と印字されたもの
を見ても、真に受ける人はほとんどいない。
だが、同じ文言がネットニュースやSNS上で
流れてくると、もう少し信憑性のあるような
文字列となって液晶画面に出現する。
「石破首相がASEAN首脳会議に出席」と
「ネス湖でネッシー発見」が、まったく同じ
体裁で流れてくるのだ。
これでは混乱するなというほうが無理がある。
「俺は混乱なんかしてないぞ」と思っている人
は、自分が混乱していることにすら気付いて
いないのだろう。
週刊誌も同じである。
あのザラザラとした安っぽい再生紙にいささか
下品で大袈裟なタイトルが特大フォントで
踊っているからこそ、読者は(これ鵜呑みに
したらあかんわ)と分かる。
最近、文春は世の中からちょっと持ち上げら
れ過ぎて権威化しかけていた。
文春砲は確かにすごい。
でも、どこまで行っても文春は「たかが週刊誌」
なのである。
新聞の使命が「事実を伝える」ことにあると
したら、週刊誌の使命は「話を伝える」ことに
あると私は思っている。
それは客観的事実というより主観的事実であり、
ニュースであると同時に読み物であり、物語で
もある。
それでもたまさか、新聞やテレビからは生ま
れないようなスクープや斬新な記事が飛び出す
から不思議だ。
それを雑誌ジャーナリズムと呼ぶのだろう。
新聞と週刊誌は重なる部分も確かにあるが、
根底に流れる思想が異なっている。
両者を同じ態度で読んではいけない。
文春砲すごい! と手を叩いている人には
「たかが週刊誌」、あんなの全部デタラメで
しょと疑っている人には「されど週刊誌」と
いう言葉を捧げたい。
【転載終了】
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>訂正記事を出したきっかけは、橋下徹
からの指摘だという。
ネット世論を知悉する稀代の切れ者に訂正
を出すべきだと滔々と迫られ、言いくるめ
られてしまったのかしらんと私は思ってい
る。
この人物は、フジのレギュラーコメンテ
ターですからね。
個人的にはこのような人物が何故弁護士な
のだろうと予てより不思議には思っていま
すが。
まあ、ニュアンス的な違いでも誤解する
読者はいると思うので訂正記事は必要かな
と個人的には思ってはいます。