丸川医院はわりと評判がいい病院だったので地方からも患者がやってきたが、ときに珍しい出会いもあった。勤めてしばくしてから、手の骨折で入院していた患者が、食事を運んできたナツをじっと見ていた。最初はやり過ごしていたが、何回も続くとさすがに気になった。じっと相手の顔を失礼のないていどに見つめる。なつかしさが一気に襲ってきた。だが細部が思い出せない。
「あら?」
ナツが気づいたのをきっかけに患者は話しかけてきた。
「おたく、もしかしたら美唄の我路にいたことない?」
彼女がそう言ったとたんナツの記憶の回路もつながりだした。
「ええいましたけど? えーとあなたは……」
「おたく、我路橋のそばにいた芦原さんじゃなくて?」
「ええ、そうです」
「やっぱりだ! 芦原のナッちゃんでしょう?」
「はい」
「あたしよ、今は小泉だけど旧姓は重森よ」
「ええ? 重森さんってあのころうちの横にいた?」
「そうよ、我路の重森よ、隣り同士だったでしょう」
ナツが急いで名札を見ると小泉タマと書いてあるのが目に入った。
「タマちゃん? 重森タマちゃんなの?」
「そうよドタマよ」
すっかり記憶が戻った。気の荒い父親に怒られて、こらドタマと言われていた女の子の姿が浮かんできた