フジモトでの仕事は難しいものではなかった。海産物の目方を量り、それを手際よく梱包する。正確に品数を記録し発送する。そうした仕事はナツにとって、以前の二つの仕事に比べてホッする気楽なものだった。

 ただし給料はひどく安かった。思うようにはいかないものだ。そう感じながらもナツは真面目に働いた。単純な労働だが、少しでも効率よく仕事をするよう心がけた。そういった仕事のコツを身につけていくことはそれなりの意義があった。

 ここで働くおばさんたちは気の良い人たちだった。少なくともナツにとってはそう思われた。昼休みになると、自分たちがこしらえた漬物を気前よく食べさせてくれたり、採れた野菜をくれたりもした。素朴な良いおばさんたちだとナツは思った。

 ある日、蘭島から来ていたおばちゃんが栗を持ってきてくれた。それを昼休みに鍋に入れてみんなのために火で焼いてくれた。栗は湯気を立ててはじけ、甘い香りを放っている。皆はじょうずに口で割って食べるのだが、ナツは下手だった。真っ赤に焼けたての大きな栗をそのまま口に放り込んだ。

 そのとたん、けたたましい音と悲鳴が聞こえた。それはナツ自身の悲鳴なのだが、なんと焼けた栗がナツの口の中で爆発し、かなりの火傷をおったのである。ナツの少し受け口の唇がポップコーンのように三倍に膨れ上がった。