七十台が一斉に音を出す。五グラムの鋼球が弾かれ、回転し、真鍮製の釘にぶつかりながら落ちていく。多くは奈落へ。わずかのパチンコ玉が幸運な穴を見つける。その右往左往する様は、気まぐれな誰かの指で弾かれ、放り出された混沌とした社会でうごめく人間の動きにも似ていた。

 一九三〇年に第一号が開店したパチンコ店は戦時中はすべて閉鎖の憂き目をみたが、戦後は爆発的に復活し、またたく間に日本中に広がった。すさまじい騒音に加えて、勇ましい音楽が一日中かかっている。そんな中で客が店員を怒鳴りつけても、ナツはかつて経験したこともない異常な騒音の中で言葉がさっぱり判別できないのだった。

 ここは小樽の稲穂町に数年前にできたパチンコ店スマイルである。市内に三つの店があり、ナツがここに勤めて二カ月になろうとしていた。

 善一と別れてから、ナツは旧姓の芦原に戻った。しかし子どもたちは学校のことも考慮して高階のままで通した。離婚してすぐにナツは必死になって仕事を探したが、すでに斜陽化が始まっていた小樽では、めぼしいものがなかった。

 鰊景気は昔の夢になってしまっていた。北のウォール街と呼ばれていた金融街はロンドンや世界の取引所にも大きな影響を与えていたが、潮が引くようにおもだった産業が撤退に次ぐ撤退となって、その界隈は博物館ロードの様相を呈しつつあった。 

 人々は仕事を求めて大都市へ出てゆくようになっていた。子どもが五人もいる四十女が就ける仕事は限られていた。やむなくナツはまったく不慣れな遊興産業で働くことになった。