オノマトペ(擬声語・擬態語)と日本の名作
昨日深夜、NHK-BSプレミアムの再放送 『偉人たちの健康診断 「滝沢馬琴 虫歯と入れ歯と甘いもの」』初放送11/28(水)20:00~20:59再放送12/04(火)23:45~24:44----を観ていたところ、ロバート・キャンベル氏 (日本文学者・東大国文学研究資料館館長)が語ったコメントが強く残った。「曲亭馬琴が好きで『南総里見八犬伝』を最後まで読んだが、すごいですね!ほんとに あの 日本語そのものを育てていた人です。馬琴の言葉って オノマトペを すごくたくさん使ってリズミカルだし。読んでてとにかく気持ちがいいということと、ぶっ飛んだ世界に ほんとに行くことができない時代や場所に運んでいってくれること。そしてその中に リアリティーがすごくある。」『里見八犬伝』をちゃんと全巻読んでいない私としては、即シンパシーを感じた訳ではなかったが、"オノマトペ" については平素から関心が強かったので、この際、チェックしてみた。*長崎外国語大学外国語学部国際コミュニケーション学科ドイツ学(近代文学)准教授:坂本彩希絵(さきえ)氏によれば----オノマトペとは物事の声や音、様子や動作、そして感情などを模倣的に表す擬声語・擬音語・擬態語の総称。古代ギリシア語「ὀνοματοποιία」(onomatopoeía オノマトポイーア)に由来する。ονομα(onoma オノマ)は本来「語」あるいは「名」を意味し、~ποιειν(poieín)は「作る」あるいは「詩作する」という意味である。つまり原義の ονοματοποιια ’ ′(onomatopoeíaオノマトポイーア) は「造語」あるいは「名付け」を意味した。ヨーロッパでは古くから広範囲に定着していた用語であり、英語では「onomatopoeia アナマタピア(オノマトペア)、ドイツ語では「Onomatopöie オノマトペ と呼ばれる。日本語でもフランス語「onomatopeeオノマトペ)」からの外来語「オノマトペ」は、擬声語の意味で用いられる。*擬声語(擬音語)・・・物が発する音や声などを字句で真似た(模倣した)語。擬態語・・・状態や感情などの音を発しないものを字句で真似た(模倣した)語。*名作における適用事例1946年創刊の総合雑誌『展望』(筑摩書房)の編集長を務め文芸評論家としても活躍した、臼井吉見氏は、「川端康成の文章には、オノマトペがひっきりなしに出て来る」と語っている(1952年)。川端康成『伊豆の踊子』(1926年)「手拭もない真裸だ。それが踊子だつた。若桐のやうに足のよく伸びた白い裸身を眺めて、私は心に清水を感じ、<ほうつ>と深い息を吐いてから、<ことこと>笑つた。子供なんだ。」<くつくつ>、<くすくす>川端康成『雪国』(1935年)「<ばたり>と投げ込まれたように、体に<ぐらり>と倒れ」「頭が<さっぱり>しないんだ。君とだって、<からっ>とした気持ちで話が出来やしない」再びロバート・キャンベル氏「宮沢賢治は、オノマトペの使い方が巧みな作家としても知られています。<うるうる>」(山が盛り上がる様子)、<どう>(風が吹く様子)など、賢治のオノマトペは、独特で、本当にその風景へトリップしてしまいそうな、臨場感があります。『どんぐりと山猫』(1924年)では、むちを叩く音<ひゅうっ、ぱちっ>が、 crack! whip! と英訳されています。また、だれが一番優れたドングリなのか、300以上のドングリが言い争う場面(ひとりひとり個性が違うのに、それでも一番になりたがり、競争して優位を主張したがる人間を描いているものだと思われる)原文では<わあわあわあわあがやがやがやがや>となっているのが、yak, yak mumble, mumble, growl, growl, growl とリズムよく英訳されています。growlは、犬などが怒った時にグルルル、と低くうなる音なので、不快な感じがよく出ている英訳ですね」小嶋孝三郎氏(立命館高校教師・オノマトペ研究者)「太宰治の短篇『トカトントン』(1947年)では、<トカトントン>以外のオノマトペとして<じゃぼじゃぼ>があり、その他擬態語の<うんざり><よろよろ>など。全日本オノマトペ倶楽部(Author杉田淳子氏2011-09-30「オノマトペがそのままタイトルになった小説があります。太宰治の『トカトントン』。あまり有名な作品ではありませんが、オノマトペそのものが主人公といってもいいような小説です。物語は、読者から小説家に来た手紙の文体をそのまま小説に仕立てたもので、いわゆる独り語りのスタイル。主人公の心情がめんめんと綴られます。終戦の日に聞こえた<トカトントン>という金槌で釘を打つ音。それまで「私」は、中尉の演説を聞いて、「死のう」と心に決めていたのに、この不思議な音で悲壮も厳粛も一瞬のうちに消え、私は憑きものから離れたように、<きょろり>となり、なんともどうにも白々しい気持」になったというのです。それ以来、何かに感激して奮い立とうとするたびに、どこからともなく<トカトントン>が聞えきてて、すべてがバカバカしくなるというのです。2012-01-23芥川龍之介『蜘蛛の糸』(1918年)「日本人なら誰でも一度ぐらいは読んだことのある(であろう)傑作童話。わたし、今回ちょっとテンション、低いです。この物語が、わたしには難しい。すいすい読めるやさしいお話……なのですが。『蜘蛛の糸』には、印象的なオノマトペが6つ登場します。<ぶらぶら>極楽の蓮池のまわりを歩くお釈迦様。<するする>地獄にいる大盗賊のカンダタ(原文は難しい字です)に蜘蛛の糸が降りてくる様子。<ぷつり>後から登ってくる罪人たちを振り払おうとして、蜘蛛の糸が切れた音。<くるくる>まるで独楽のように廻りながら、再び地獄へ落ちていくカンダタ。<きらきら>あとに残った蜘蛛の糸が細く光る様子。<ぶらぶら>すこし悲しそうしにながらも、また極楽の蓮池のまわりを歩くお釈迦様。<ゆらゆら>お釈迦様の足元で咲く蓮の花がゆれている様子。この『蜘蛛の糸』の文章は、思わずうなるほどの完璧さです。ひとつひとつのオノマトペの美しいこと!」