夕食の席で、思い出したようにギュンターが、ディングレーにささやいた。
「ローフィスとの仲を、ファントレイユの母親に疑われた事、そんなに打撃なのか?」
ローフィスはそれを耳に途端顔を上げ様、バラしたな。とシェイルを睨む。シェイルは肩をすくめた。
「口が、滑った」
ディングレーがギュンターを、見た。
「お前、オーガスタスとそういう仲でお前が女役をしてるんだろうと言われたら、どうする!」
ギュンターはすかさず、応えた。
「俺が男役だと、言う迄さ」
オーガスタスが、スープをぶっ!と吹き出した。
ローフィスも訊ねる。
「否定、しないのか?」
ゼイブンが言った。
「無駄だろう・・・。俺だって最初セフィリアに、アイリスの仕事仲間だからきっちり、奴と寝室で過ごしてるんだろうと、疑われた」
皆が何げにそう言い、スープを掬ったスプーンを口に運ぶゼイブンを、凝視した。
ディングレーが、思わず訊ねた。
「・・・それで、どうした?」
ゼイブンは妻、セフィリアに翻弄される黒髪の大貴族の、男らしい顔が真剣そのものなのに、肩をすくめた。
「美人の言う事だぜ?
疑惑は疑惑でしか無く、事実じゃないから、自分が俺と付き合って確かめて見ろと言ってやった」
皆が一斉に、感心したような吐息を、吐いた。
が、ローフィスがつぶやく。
「忘れるな。結婚後は寝室から、閉め出されてるんだぞ」
皆が、そうだった。と我に帰る。
ゼイブンがそう言うローフィスを、しっかり睨んだ。
ファントレイユがつい、隣でスープを口に運ぶレイファスにつぶやく。
「寝室に入る事が、重要なんだ」
レイファスは解ってないファントレイユにつぶやき返す。
「君はいつも、入れてもらえる?」
だがファントレイユはゼイブンに遠慮するようにチラ・・・と見、そっと、頷いた。
オーガスタスとローフィスが、ため息を吐く。
ゼイブンが、喧嘩越しに言った。
「・・・何だ!」
ディングレーがぼやく。
「子供に気遣わせるなんてな」
ゼイブンは乱暴に皿の底にスプーンを、音を立てて当て、ファントレイユに向くと静かに、怒鳴る。
「だがお前はセフィリアに頼まれても、寝室は嫌なんだろう?」
ファントレイユはそっとゼイブンを見上げてささやく。
「だって僕もう赤ちゃんじゃないし・・・。熱だって出ないのに、一緒に寝たりしたら恥ずかしいじゃないか・・・。でもゼイブンは一緒がいいんだよね?
どうして・・・恥ずかしく無いの?」
皆がつい、知識の無いファントレイユを凝視したが、ゼイブンは怒鳴った。
「夫婦だと、恥ずかしく無いんだ!」
「・・・ゼイブンが、赤ちゃんみたいでも?」
ファントレイユの言葉に皆が思わず想像してクスクス笑う。ゼイブンが口を開こうとし、テテュスに先を超された。
「大人はする事があるから。赤ちゃんみたいにならないんだ」
「する事?」
ファントレイユの素朴な質問に、大人達は一斉に、誰がフォローするか、顔を見回しあった。
が、レイファスが果敢に口を開く。
「だって君、男の子の印が付いてるだろう?」
皆がこの場の食事中にレイファスが始めるのかと、顔を下げた。
ファントレイユが、頷く。
「君のは出てて、女の子のは引っ込んでる。
合うように、なってるって知ってる?」
ファントレイユは首を横に、振った。
「・・・つまり僕のを・・・女の子に入れるの?」
レイファスは頷く。
「そうすると、男の子の中の液が女の子の中に入って、混じるとそこから子供が産まれる。
僕に兄弟が出来ないのはアリシャがもう子供を産まない方がいいくらい体が弱いからだけど、君に出来ないのは、ゼイブンがセフィリアの寝室から閉め出されてて、子供を作る作業が、出来ないからだ」
ファントレイユが、不安そうにゼイブンを見上げた。
「・・・でも、僕ちゃんと、ゼイブンが帰って来た時セフィリアの寝室に入るの、断ってるよね?」
ゼイブンは素っ気なく言った。
「安心しろ。弟か妹が出来ないのはお前のせいじゃ、ない」
ファントレイユが心から、ほっとした。そしてゼイブンに瞳を向ける。
「寝室じゃないと、駄目なの?」
ゼイブンは息子を見て、がなった。
「俺だって寝室にこだわる気は無いが、セフィリアが不潔な所でしたいと思うか?」
ファントレイユは、頷いた。
「じゃ、本当は寝室以外でも、子供は作れる?」
ゼイブンはファントレイユを、見た。
「別に潔癖性で無くても、身分の高い品のいい相手は、馬小屋だとか納屋だとか、草の上でしたいとは言わないもんだ。覚えとけ!」
ファントレイユは頷き、
「農家の女将さんは、平気?」
ゼイブンは頷く。
「じゃ、あの時、レイファスと僕が居なかったら、あの納屋で子作り、した?」
皆の、食事の手が、一斉に止まる。
ゼイブンはファントレイユをじっ、と見た。
「・・・俺だってお前に兄弟をくれてやりたいが、セフィリア以外で子供を作ったりしたら、離婚だ。
ちゃんと、子供が出来ない方法がある」
ファントレイユはゼイブンを、見た。
皆が見守る中、ファントレイユの口が再び開き、更に、この会話が続くと、全員が覚悟を、決めた。
つづく。