ギュンターが、だれきってるゼイブンを見た。
「・・・関心が、全く無いようだな?」
ゼイブンは殆ど仰向けなくらい椅子に沈み込み、腹の上で両手を組みつぶやいた。
「ローフィスと一緒の仕事だと、俺は短剣を持たずに、済む」
ディングレーもオーガスタスも呆れきった。
だがゼイブンは続けて、ぼやいた。
「・・・でも上司のアイリスが意地悪だから、滅多に楽させて貰えない」
アイリスがぷんぷん怒った。
「お前が断るから、ローフィスの面倒な仕事が、増えるんだ!」
ローフィスも呻いた。
「俺はお前の尻拭いなんだぜ?」
ゼイブンは二人に怒鳴った。
「出世させるような仕事を俺に割り振るからだ!
俺は平でそこらを蝶のようにひらひら飛んでいたいんだ!」
アイリスはがっくり、肩を落とした。
「・・・隊長にローフィス。顧問にゼイブンを押して私は後ろに、引っ込みたいのに・・・。
どうして私の部下は皆、出世欲が、無いんだ?!」
ゼイブンが手を、振り上げた。
「そりゃ、あんたが適任だ。優雅なのに睨みはきくし、王族にも大貴族にも顔はきく。上の覚えもめでたいし、肝も座って相手に侮られない。あんたが居たら、周囲は自然にあんたに椅子を、譲っちまう」
今度はアイリスが、ぼやいた。
「ゼイブンに誉められても、ちっとも嬉しくない」
ローフィスは軽やかに笑った。
「だが顧問くらいなら出来るだろう?ゼイブン。
『神聖神殿隊』は美形だらけだぞ!」
ゼイブンがその一つ年上の男の軽口に、論外だと目を剥いた。
「男ばっかじゃないか!
第一、綺麗な顔して人外の者だ!
全うな会話にどれだけ苦労すると思ってる!
迂闊に接すると、心を読まれるんだぞ!
それに、神聖呪文だなんてあんな面倒なものを覚えるだなんて、持っての他だ!
そういうのは素晴らしく要領のいい、あんたの仕事だ!」
ローフィスとアイリスは顔を見合わせ、ローフィスが拳を顎に当て、おもむろにつぶやく。
「そういえば、監査長のポストが直空くな」
ゼイブンは慌てて両腕を振り、椅子からすっ飛んで身を起こし、ローフィスを指差して怒鳴った。
「絶対!俺に振るなよ!
野郎の尻追っかけて、どこが楽しい!」
オーガスタスもディングレーもが一瞬目を見交わすと、二人して大きなため息を、付いた。
アイリスが、ゼイブンをじっと、睨むように見た。
ローフィスが、自分より上背で普段は優雅そのものの二つ年下のその男の、切羽詰まった様子を目にし、静かにつぶやく。
「どっかに入っといた方が無難だぞ?
『神聖神殿隊』付き連隊長を押しつけられても、いいのか?
アイリスは少しでも長くテテュスと一緒に居たいから、どっかでキレたら、絶対俺かお前に、回って来る」
間髪入れずにゼイブンが怒鳴る。
「間違いなくお前だろう!年も上だし、人望もある!」
ローフィスはマジに怒るゼイブンをじっと見、すかさず言った。
「だってお前、アイリスとは親戚じゃないか。
皆も納得する」
ゼイブンが、ぐうの音も出ずに思わず歯を剥く。
ファントレイユが心配げに見上げ、そっと尋ねた。
「セフィリアと・・・離婚する?」
ゼイブンはファントレイユを怒鳴りつけた。
「セフィリアと離婚しない!連隊長もごめんだ!」
ローランデが大きなため息を吐き、ゼイブンが気づいて訊ねる。
「・・・何だ?」
ローランデは髪に顔を埋めるように俯いたまま、つぶやく。
「息子の面倒さえ見る気の無い奴に、役職を迫るなんて・・・」
シェイルも思い切り、頷いた。
「問題外だ」
つづく。