アースルーリンドの騎士外伝。テテュス編。『幼い頃』 143 | 「アースルーリンドの騎士」

「アースルーリンドの騎士」

オリジナル  で ファンタジー の BL系小説。
そしてオリジナルのイラストブログ。
ストーリーは完全オリジナルのキャラ突っ走り型冒険ファンタジーです。
時折下ネタ、BLネタ入るので、年少の方はお控え願います。

テテュスはアイリスを、見上げた。
腕組みして見つめるアイリスには、解っているようだった。ローランデが珍しく息を切らし、ゼイブンを見る。がその息切れを直ぐに収め、横を向いて居る、初めて怒りの表情を顔に浮かべたゼイブンを、静かに見つめた。
ローランデは訊ねた。
「・・・どうして心臓に、投げない?」
ゼイブンはその静かな問いかけをするローランデに振り向き様、怒鳴った。
「ああ!あんたになら、投げたって避けるだろうさ!」
ローランデはすっと屈み、ゼイブンの投げた剣を拾う。
「もっと私に隙を、作れた」
「・・・そうかもな!」
「傷くらいは負っていた」
ゼイブンがとうとう振り向き、ローランデを見据えた。
「傷に何の意味がある!
俺は仕留めるつもりで、やっている!」
ローランデは青い瞳を真っ直ぐ、ゼイブンに向けてつぶやく。
「・・・だが君の腕で心臓を立て続けに狙えば、確実に私の動きを縛れた。右で仕留める機会が、もっと出来た筈だ」
静かに返答を求めるその剣士に、誤魔化しはきかないとゼイブンはイラ立ちながら、兜を脱いだ。
「・・・心臓を狙わず、それで殺されたら俺の、寿命だ!そう決めている!」
ローランデの眉が、思い切り寄った。
「・・・殺されても、心臓には投げない気か?」
ゼイブンはローランデを、見た。
ゼイブンのブルー・グレーの瞳には体温が、戻っていた。
「・・・俺はびびりで、根性無しだ。
いいか!俺の腕で心臓を狙えば簡単に殺せる!呆気なく!相手が死ぬんだ!どれだけ怖いか、解るか?
最悪を通り越す!俺は絶対・・・・・・・・・!
そんな短剣は投げたく無い!」
その声は絶叫に近く、ローランデは参ってるのは彼の方だと解った。
そっ・・・と近づき、ローランデがゼイブンの肩に触れるとゼイブンは肩を凪払った。
「・・・野郎はごめんだ!」
だがそれでもローランデが腕を掴むと、ゼイブンは俯いた。
彼が震えていると、皆がその時、解った。
ゼイブンが、ローランデを見ないまま怒鳴った。
「俺に・・・心臓を狙わせるな!
やれと言われれば・・・簡単に出来る!
簡単に人を殺せる事がどれ程恐ろしいか、お前に解るか?!」
そう、俯いたまま怒鳴るゼイブンの顔が苦しげに歪み、肩も腕もがぶるぶる震え、皆がつい、その様子に押し黙る。
ゼイブンはそれでもまだ自分に注がれる、静かな青の瞳にようやく顔を上げ、怒鳴った。
「俺は・・・自分を恐ろしい男だと思い知って生きていける程、強く無いんだ!」
悲鳴のようだ・・・とファントレイユは思った。
ゼイブンはローランデに腕を掴まれたまま怒鳴り続ける。
「それに・・・俺はアイリスやあんたみたいに冷静じゃ無い!キレちまったら、殺す事しか念頭に、無い!意識が飛んで・・・・・・。
相手が死んだ後に正気に戻ったって、遅いだろう?!」
ゼイブンは泣き顔で、ローランデは彼の掴んだ腕の震えが、止まらないのを感じた。
「俺は・・・嫌だ!最低の、命を屁とも思わない盗賊共と同じに成り下がるのは!
奴らは絶対地獄に落ちる・・・!
俺は死んだら別嬪の天使に迎えられて天国に行くと、決めてるんだ!
絶対にだ!」
笑えるセリフだったけれど・・・誰も、笑わなかった。
ゼイブンが、泣いていたから。
つづく。