がローランデは、レイファスとファントレイユがその様子を、羨ましそうに見つめるのに、気づいた。
それでつい、ファントレイユにそっと訊ねた。
「君の父親はあんな風じゃないのかい?」
ファントレイユはそう尋ねる優しげなローランデを見つめたが、レイファスが言った。
「僕の所も彼の所も、父親と言えば妻に夢中で子供は二の次なんだ」
ローランデが、ほうっと、吐息を吐いた。
「とても母親に大事にされている子供達だと、ディアヴォロスに聞いたが」
ファントレイユは俯いた。
「その分父親から遠ざけられてる」
シェイルは、頷いた。
「つまりそれで・・・お前なんかは凄く、必要以上にお行儀がいいんだな?」
ファントレイユは顔を上げる。
「僕は普通のつもりだけど・・・」
シェイルは唸った。
「乱暴な事も、言葉使いも全部駄目か?」
ファントレイユはこっくりと、頷いた。
ローランデは俯いた。
「私の所も、君達より少し大きい男の子がいるけど・・・。毎日喧嘩して泥だらけで帰って来る」
ファントレイユもレイファスも、思わず顔を上げた。
ファントレイユが訊ねた。
「それで・・・お母さんは何も言わないの?」
ローランデは微笑んだ。
「負けて帰って来ると、情けないと意地悪を言う」
ファントレイユはびっくりした。
「怪我してても?」
ローランデは、頷いた。
「男の子は強く無いと、価値が無いそうだ」
ファントレイユは俯く。が、つぶやいた。
「僕も、そう思う。だって強く無いと、セフィリアみたいに誰かに護って貰わなくちゃいけなくて、僕は男の子でセフィリアと違うから、護ってくれる男の人なんてなかなか見つからない」
ローランデは目をまん丸にし、シェイルは気の毒そうにファントレイユを見つめた。
「・・・それは違うだろう?
お前が断っても、護りたいという図々しい奴は絶対現れるぞ?」
レイファスが、湯で赤く染まった可愛らしい唇を、開いた。
「でもファントレイユは面食いで、凄く理想が高くて、それにぴったりだったアロンズに逃げられて、落ち込んでる」
シェイルもローランデも、呆れたようにレイファスを見つめてため息を吐き出した。
テテュスが笑顔で振り向いた。
「僕が護るよ」
だが、言った後にファントレイユとレイファスの視線を受け、綺麗なファントレイユの理想が、うんと高いと思い出して、俯いた。
「・・・僕じゃ・・・アロンズよりうんと、見劣りする?」
俯く、アイリスをそっくり小さくしたみたいな、とても整った顔立ちの色白のテテュスの、初々しい美しさに、皆が思い切り呆れた。
アイリスが慰めようとして口を開くがそれより先にファントレイユが微笑を浮かべて告げた。
「テテュスは同い年の誰より立派な男の子だ。
じゃあ僕、テテュスの足手まといにならないよう、もっと頑張る」
ファントレイユの決意を聞いて、ローランデが困惑の表情を浮かべ、シェイルはそれを見てつぶやいた。
「足手まといより、世話かけない方を気を使え。
大体、お前剣を覚えたら護られる必要、無いだろう?」
ファントレイユがその美貌の剣士に、素直に訊ねた。
「どうして?」
ローランデが目を伏せてつぶやいた。
「だって、ギュンターですら本気にさせるくらいの、気迫の持ち主だ」
シェイルも、言った。
「お前がとんでもない野獣に突っかかって行って、命
を落とさないようテテュスがきっと、はらはらするぞ。
お前を庇って必要以上に強い相手と戦ったりしたら、命を落とすのはテテュスの方かもしれない」
ファントレイユは顔を揺らし、テテュスを見つめる。隣で心から、息子を気遣い寄り添うアイリスをも。
「そんな事になったら一生アイリスに嫌われる!」
ファントレイユがアイリスの事がどれだけ好きかを示すように、泣きそうに顔を歪め、シェイルが彼を覗き込んだ。
「じゃあ、今度からキレる相手はちゃんと選べ。
間違っても、猛獣の中でも更に危険なギュンターみたいな相手には、キレるなよ!」
ファントレイユは俯くが、レイファスもアイリスも、事情が解って俯いた。
レイファスが、顔を下げたまま、そっと言った。
「でもファントレイユは気づくと、キレてる」
アイリスも、頷いた。
「彼の父親のゼイブンも、普段は危険で乱暴な事は大嫌いで、近づく事すら拒否するお気楽男なのに。
一旦キレると、手に負えない」
ローランデとシェイルが、やれやれとため息を、吐いた。ファントレイユが必死で叫んだ。
「・・・でも僕、テテュスの事が凄く大好きだから、彼が護ってくれるなら、うんと気を付ける!」
シェイルは、そうしろ!と彼の頭をぽんと軽く叩いた。
つづく。