アイリスは、あと数歩で会議場だと言うのにその廊下で睨み合う、ギュンターとマリーエルの姿を見つけた。
二人の怖さに誰も側に、寄れなかった。
アイリスは二人の横に付くと、つぶやいた。
「会議の準備をする者が、中に入れなくて困っている」
「・・・入ればいいだろう?」
ギュンターはまだマリーエルに胸ぐらを掴まれていたが、マリーエルを凄まじい瞳で睨み付けたまま、言い返した。
アイリスが腕を組んで思い切り、ため息を、吐いた。
俯いたまま、告げる。
「・・・いい加減大人げないとか、思わないんだな?
相手はローランデの息子だろう?
君には年長者の、思いやりとか余裕とかの持ち合わせは、無いのか?」
「・・・この、今にも喰い付きそうな野獣の坊やを君が何とかしてくれるんなら俺だって、殺気を引っ込めるが」
アイリスは思い切り、呆れた。
「・・・仲裁がいるのか?
自力ではどうしようも、無いのか?」
ギュンターが、ぶすっとして、告げた。
「・・・アイリス。こいつは五歳の餓鬼の頃から、俺の恋敵なんだ」
アイリスが、呆れた。
「君は五歳の子供を恋敵に、していたのか?」
ギュンターは頷いた。
「もの凄く、手強い。ローランデにそれは、愛されているからな」
マリーエルがとうとう、口を開いた。
「・・・お前にくれてやるなんて本当に、馬鹿な事をしたぜ!」
ギュンターが、嗤(わら)った。
「お前が、餓鬼の頃のたわ事で無効だとか、言い出さない卑怯者で無くて、良かったぜ!
あの頃から野獣だったが今はきっちり、成獣だもんな!」
「・・・睨み合ってる、理由を聞いていいか?」
アイリスがそっと、聞いた。
「・・・俺がカタを付けると言ったのに、こいつがしゃしゃり出る」
ギュンターが言うとマリーエルも怒鳴った。
「・・・しゃしゃり出てきたのはお前だろう!
権利があるのは、俺だ!!!」
アイリスは、心の底からうんざりした。
「・・・君達がここで言い争ってると、ローランデに告げていいんだな?」
二人ともが瞬間、睨み合うのを止めてアイリスを、見た。
「・・・告げ口か?」
ギュンターが言うと、マリーエルも言った。
「それは無いだろう?餓鬼扱いされる」
「私がどんな人間か、君達は知らないとでも言う気か?」
アイリスが事態の決着を付ける為本気でローランデを呼ぶ気だと、二人は気づいて殺気を、解いた。
「入ってくれ。実は、君達に教えた時間は他者より、早い。まさか二人が睨み合うとは思ってなかった。
私の予測が甘くて君達に、謝罪する」
ギュンターは、謝罪する、と言う言葉は明らかに皮肉だな。と軽く肩をすくめた。
君がそこ迄ローランデに関して、大人げなく激怒するとは思わなかった、と呆れたんだろう。
マリーエルもこの、多大な政治力を持つ軍の大物の言葉を、その通り受け取る程阿呆では無かった。
促されて会議場に、足を、踏み入れる。
周囲に円形に椅子が並べられ、中央が広く、議長席が設けてあった。
周囲の椅子の前には手摺りがあり、つまり怒った出席者が直ぐ剣を抜いて、中央に乱入出来ない仕組みだ。
あちこちに、場を隔てる手摺りが設けられて乱闘、しにくいようになっている。
・・・つまりここで行われているのは、いかに、危険な会議かと言う事を物語っていた。
アイリスは心から、オーガスタスの苦労を、思った。
二人をともかく、椅子に掛けさせ、自分は二人に、向かい合って座った。
「・・・解って無いようだが君達は、それぞれの地方護衛連隊の、長だ」
アイリスは二人を交互に見たが、お互い腕組みしてそっぽを向きあい、やっぱり解っている様子は、無い。
「今日は、多分決闘に、なる」
二人の瞳がきらりと嬉しげに光り、アイリスは心から、げんなりした。
「金と肌白。二人出す。
どっちがどっちか、なんだがどうせ、君達は肌白の方で決着を着けたいんだろう?だがアーシュラスを思い切り殴らせてやるから、ギュンター。折れてくれ。君が金の方だ」
だがマリーエルが問うた。
「・・・殴る?決闘だろう?」
アイリスが、顔を上げた。
「会議場では、剣を抜かせない。
殴り合いの、決闘だ」
ギュンターとマリーエルが顔を、見合わせた。
アイリスは肩をすくめ、続けた。
「アーシュラスが前回の事を覚えて無くて(そんな事はまず、無いだろうが)言い出さなければ決闘は、無い。後で君達が好きなだけ、やってくれ」
ギュンターはため息まじりにつぶやいた。
「・・・随分投げやりだな。君の関心は会議だけか」
マリーエルもつぶやいた。
「会議の席じゃなきゃ、乱闘してもいいんだな?」
アイリスは二人を、見た。
「だってそれ以外なら、ローランデを呼べばコトは済む。
ローランデの前じゃ君達は恥ずかしくて言い争えないだろうし、万が一アーシュラスが彼を目前に口説き出しても、ローランデが正式に決闘を申し出てアーシュラスに自分の考えの甘さを、思い知らせるだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・東領地ギルムダーゼンの野獣共がお前を凄く、嫌う理由が良く、解るぜ」
ギュンターがつぶやくと
「あんた、人の首根っこ掴んで喉を鳴らせと言う気なんだな?!最低のやり方だ!」
アイリスは誉め言葉を聞いたように、にっこりと笑った。
「野獣相手に、まっとうなやり方をする必要が、どこにあるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人がぶすったれて黙り込むと、アイリスの部下が彼らの武器、つまり長剣、短剣、その他を、お預かりしますと丁重に取り上げ、二人は離れた椅子に腕組みし、最悪に不機嫌なぶっちょう面で後の入場者を、待った。
つづく。