東領地ギルムダーゼンのダーディアンは、それは入り口で、ぶつぶつ言った。
「剣を取り上げるってのは、裸に成れと同じ事だぞ?
俺に、恥をかかせるつもりか?!」
きかん気、駄々っ子のような、相変わらずの口のきき方に、ギュンターは思い切り、肩をすくめた。
だがやっぱり、アイリスが顔を見せた。
「・・・今日は私が代理議長で、帯刀は困るんです。
オーガスタスと違い私は、暴力沙汰に馴れていなくて」
ダーディアンは呆れてモノが、言えなかった。
「・・・お前が暴力沙汰に馴れていないんなら、三歳の子供は刺客だ」
アイリスはその言い回しにそれでも、にっこりと笑い、言った。
「貴方のご子息は今でもどうやら、貴方の目を盗んで私の最愛の息子の側を、ウロついているらしい。
勿論、こちらも気をつけては居るが、万一賊と間違えて逮捕、拘留する事にも成り兼ねない」
ダーディアンは金髪とその見事な体躯を揺らし途端に、怒鳴った。
「・・・グエン=ドルフはそんなヘマは、しない!」
だがアイリスはますますにっこりと、笑った。
「ご子息を随分、信頼しておいでのようだ。
だが、私の部下達もそう、思っている。
まさか東領地ギルムダーゼンの大公子息が捕まるなんて。と。万が一御子息を逮捕してもそうとは解らず、貴方の問い合わせを、待つ事になるかもしれません」
アイリスは自分の息子を餌に、寄ってくるダーディアンの息子グエン=ドルフを、手屑音引いて待ち構えて拉致監禁してやるぞと、脅したのだ。
「・・・・・・・・・・・・アイリス。それを続けるといつか、寝首を欠かれるぞ」
だがアイリスは全然気にもせず、笑顔のまま差し出された剣を、受け取った。
「短剣もです。刃物は全部」
ダーディアンはムカムカしたような表情で、胸、腰、そしてブーツの下から短剣を、じゃらりと差し出し、アイリスに手渡した。
「・・・これで、いいんだな?」
アイリスは頷いたものの、こんな脅しで彼が屈するとは思っていなかったようで、つい同情するようにささやいた。
「都には出向くなと、グエン=ドルフに釘を刺しても駄目なんですか?」
ダーディアンは、むすっと彼を、見た。
「息子は俺同様、それは目端がきいて、すばしっこい」
つまりどれだけ監視しても抜け出し、彼の手にも負えない、と言う事らしかった。
アイリスは俯いてつい、ため息を、付いた。
そしてアイリスの狙い通り、『光の王』の血を引く素晴らしい騎士、西領地[シャノスゲイン]護衛連隊長ウェラハスの後ろから、アーシュラスがその黒い肌の大きな体を威嚇するように押し出しながら、こちらに向かっているのを、見た。
アイリスはまず、長身で見事な体格をしたその銀に近い金髪を爽やかに肩の上で揺らし、澄んだ湖のような青い瞳の、この会議の中の唯一の良心、ウェラハスに事情を話す。
地方護衛連隊長の中でただ一人まっとうな人間の騎士ウェラハスは当然、快く彼に武器を差し出す。
そしてその後ろから来たアーシュラスに、アイリスは同様にするよう申し出たが、やっぱりの反応だった。
「・・・あいつは自分が武器だ!
武器を持ち入み禁止なら、あいつ自身を入場禁止にすべきだ!」
アイリスは、微笑んだ。
「つまり今回は、貴方が、欠席と言う事ですか?」
意見のあったアーシュラスは、引っ込む訳にはいかない。
「欠席はしない!武器も外さない!」
アイリスは彼を、とても気の毒そうに、見た。
「・・・皆全員が、刃物を持っていないのに、貴方だけは必要なんですか?
・・・つまり、そんなに彼らが怖いんですね?」
アーシュラスが怒りを通り越して、魔人のような顔に、成った。
「・・・あいつらが、怖いだと?!!
俺の、どこをどう見たら、そう思うんだ!!!」
大層大柄なオーガスタスと張る程の見事な体格のアーシュラスが叫ぶと、アイリスが彼の腰の剣を、じっ、と見つめた。
アーシュラスはそれに、気づく。
アイリスはため息混じりにつぶやいた。
「・・・だって他の男達は刃物を必要としない」
アーシュラスは顔を怒りに歪めて、怒ったように剣を鞘毎腰から抜き、アイリスの手に押しつけた。
「・・・これも・・・これも必要ない!
俺は意気地無しじゃないからな!!!」
短剣の他に宝石のたくさん付いた髪飾り、胸飾り帯飾り迄差し出す。
が良く見るとその先は全部、鋭い、刃だった・・・・・・・・・・・・・・・。
「どうぞ。入って頂いて、結構です」
アイリスはにっこり笑うが、アーシュラスが中へ消えると、眉を顰(ひそ)めて両手いっぱいの刃物を部下へと、渡した。
アーシュラスの後ろから三人の侍従が付いてきたが、アーシュラス同様、刃物を、横に付くアイリスの部下に差し出しては通り過ぎ様、ジロリ。とアイリスを睨んだ。
どう見ても三人共アーシュラス同様黒い肌をした、体のそれはでかい筋肉の塊の、侍従と言うより戦士だった。
つづく。