ファントレイユはどうしても、眉が寄るのを止められなかった。
決まって、ギデオンの危機を感じる時の、あの全身がぞっと冷たい、嫌な感覚だった。
そして、幻が脳裏に浮かぶ。それがまるで数分後に、実際起きるかのような、鮮明な。
そしてそれは、いつもギデオンの死の、幻だった・・・。
幾度目だろう・・・?毎回、自分の事も忘れ、その幻に支配されるのは・・・。
だが、それは事実だと、経験で解っていた。自分が間に合わない限り、この幻は、確実に現実に、なる!
歯を、自然と喰い縛る。頼む・・・!
彼は馬に心から語りかけた。
どれだけでもその後休ませてやる・・・。
だが、頼む・・・!今だけは・・・・・・・・・!
馬は狂ったように急がせる、その乗り手の意を汲み兼ねていた。速度を上げるが、それよりも、もっと早く・・・!
・・・早る心が痛い程伝わったが、いくら必死で地を蹴っても、乗り手の望む早さには到底、到達出来ない気が、した。
地を蹴り続け、だが何度も急かす手綱を振り払うかのように首を、横に振る。
いつも優しい主人は、だが決然と、手綱を繰って拍車をかけ、猛速を望むのだった。
ファントレイユの瞳にギデオンの、幻の姿が映り続ける。
幾度も幾度も、その背に刃の喰い込む映像が、悪夢のようにだぶり続け、ファントレイユはそれを振り払う迄諦める気は無かった。
王子に、私が言ったのだ。後は、覚悟を決めて出来る事をする迄だと・・・!
まだだ。頼む、もっと早く・・・・・・!もっと、もっとだ・・・!
間に合う迄・・・・・・・・・!
ファントレイユは背に深く傷を受けて血を吹き出す幻のギデオンを、抱き留める事をしなかった。それは俺が、したい事なんかじゃない・・・!その前だ・・・!
その刃の、振り下ろされるその前に、ギデオンの背に、飛び込んで・・・!そして・・・・・・・・・・・・・・・!
必ず、止めてやる。何としても!
ファントレイユは、倒れるギデオンの幻を振り払い続け、そして幾度も、振り下ろされる前にその刃を、自分の剣で止める幻にすり替えた。
チラとでも、息絶える青冷めた彼の姿を思い浮かべたりしたら、その想像を超えた喪失感で、自らが獣になって慟哭しそうで、またぎり・・・!ときつく歯を喰い縛ると、その慟哭を、心の、うんとうんと奥底へと、押しやり続けた。
つづく。