・・・そしてまた、一人・・・・・・。
ギデオンがしなやかにその身を返し、野獣の、牙のごとくの剣を振る度に、男が短く呻いて床に倒れる。
正規の軍で無く、盗賊の集まりで皆が命を惜しみ、その獣の敵となるのを、ためらっていた。
恐怖におののき、ついに我慢出来なくなった男がまた一人、狂ったように、剣を掲げて彼に、向かっていく。
狂喜の形相にも、彼は顔色も、変えない。
ずばっ!
剣を振る、その形も定かに見えない程早く、それは横に弧を描いて男は短く呻き、倒れた。
全員が、次の敵を待つ、たった一人のその男をぞっ、として見つめた。
命の惜しい男が、ギデオンを取り囲む輪からこっそり外れて、扉のこちらに、逃げ出して来る。
ローゼはそっと扉の影に隠れると、広間には見えないようにその男を後ろから捕まえ、口を塞ぎ、喉をさっ、と切って誰にも気づかれないよう殺した。
ローゼは尚も、広間を伺うが、誰も気づく様子は無い。
彼がその場を僅か外したその隙に、床に転がる死体が、また増えていた。
ローゼは喉を鳴らして、唾を飲み込んだ。
ギデオンの、金の髪が散り、彼がその体をしなやかに倒し、いともたやすく敵の剣をくぐり抜け、そしてまた、一人・・・。
振りかぶり様、凄まじい気迫の元、やはり一刀の内に打ち倒して男は床に、突っ伏した。
ローゼは焦る心を、止められなかった。
・・・これではギデオンの、疲労は望めず、隙すら見つからない・・・!
じりじりと様子を伺うが、二人同時に斬り込んだにも関わらずほぼ同時に近い早さでギデオンは瞬時に二刀入れ、二人の男が床に伏す。
怯えきる、盗賊達を目にしてようやく、群の奥に居た首領が姿を、現した。さすが頑強な、逞しい岩のような男で、他の男達より、全ての造りが二周りは大きかった。
ギデオンが、笑った。
「・・・やっと私とやる気に、なってくれたか?」
待ち望んだように低くつぶやくと、首領はその、ぞっとする幾人も斬り殺してきた残忍な目を、ギデオンに向けた。
そして二人が相対し合うが、さすがに首領だけあって、ギデオンの気迫籠もる一刀をその刀で、防ぎ止めた。
「・・・やっと手応えが、あるな・・・!」
刀を交えたままギデオンが唸ると、首領も唸った。
「・・・降伏するなら今だぞ・・・!
その綺麗な顔を切り刻むのは、惜しいからな・・・!」
「いらぬ世話だ・・・!」
同時に剣を離して引くが、引くなり剣を構え、両者直ぐ同時に、襲いかかる。
再び、激しい、剣のかち合う音がする。
だがギデオンの気迫は、剣がぶつかり合う度増すばかりで、首領は場数を踏んでいるだけあって良く、ギデオンの鋭く早い剣を、全て剣で、受け止めてはいた。
だがどう見ても、押しているのはギデオンで、その勢いは止まる様子が、無い・・・。
ギデオンの後ろから、隙を付いて男が一人、振りかぶって斬りかかった。が、ギデオンは屈んで後ろに引くなり、剣を握り返して、正面に居る首領の動向を睨み据えたまま、その男の腹に剣を突き入れた。
ざっ!剣を抜き様、隙有りと襲いかかる首領の剣を、瞬時に握り戻して受け止める。
がっ!
重ねた剣を、放した直後振り入れる首領の剣が空を斬り、ギデオンも僅かな時間差で振り入れるが、その剣はひやりとする首領の顔近くを、掠る。ギデオンのその背に、また一人が斬りかかるが、ギデオンはまるで知っているかのように、その男の突き出す剣を僅かに横に体をずらして避け、男の腕を脇に挟み捕まえ、又剣の握りを返して後ろに振り入れて腹を刺して男の腕を放し、右斜め後ろからかかって来る敵に、一瞬で振り向き、一刀を入れて直ぐ、襲いかかる首領の剣を、振り向き様、受け止めた。
ローゼはイライラしていた。
あの男が討ち取られでもしたら、ギデオンの命を狙う隙が、全く無くなる。
ローゼは心から敵の盗賊達に、ギデオンが疲れ切る迄持ってくれ・・・!
と望みを掛けた。
つづく。