テントに向かう途中に、ソルジェニーが何度も物言いたそうにファントレイユを伺い見る。
もう、いいかと、人気の無い場所で周囲を見回して確認し、ファントレイユが、とても優雅な微笑みで王子を振り向いて告げた。
「・・・どうしてギデオンに、暗殺の事を告げないか・・・ですか?」
ソルジェニーはじれたように彼の腕の袖口を掴んで言った。
「・・・だって・・・注意して置いた方がいいでしょう?」
それが当たり前だとソルジェニーは思ったが、ファントレイユの表情が、厳しく成った。
「・・・必要だと思えばマントレンがそうギデオンに告げる。
それに、ギデオンはああ見えて、アデンの部下に見張られていますからね・・・!
迂闊に彼の周囲で耳打ちなんて、出来やしない」
「・・・でも暗殺は阻止できるんじゃないの?」
「・・・ここで逃れて、それで・・・?
次が無いと、思いますか?
叩くなら、出来ればここで一気に敵を、叩きたいからマントレンは、ギデオンに告げない」
「・・・・・・・・・じゃあ・・・・・・じゃあこの後は、どうするの?」
それは不安げな王子に、ファントレイユは軽やかに、笑って見せた。
「・・・マントレンに、任せればいいんです・・・。
そして自分の果たしたい役割をもう私は彼に告げてある。
私が動くべき時彼は私にそう、告げに来る。
その時、覚悟を決めて全力を尽くせばそれでいい・・・。
人にはそれぞれ、その人に出来る役割がありますからね・・・!」
ソルジェニーはそう微笑む、ファントレイユのその美貌を見つめた。
そして心細げにささやいた。
「・・・貴方が命を落とすような事はありませんね・・・?!」
ファントレイユはそれは軽やかに微笑むとそれでも嬉しそうに、弾んだ声で言った。
「・・・会って間も無いのに、私の心配をして下さるなんて、本当に、光栄ですよ!
でもまあ、ギデオンが認めてくれたように私も剣は、そこそこ使えますからね・・・!」
ソルジェニーは、ギデオンがあれだけ真剣に認めているその剣士の『そこそこ』と言う言葉に呆れた。
そしてギデオンが『あの男は何を考えているのか、いつも自分の評価を下げて相手に伝える』
と言った言葉を、思い返した。
「・・・あの・・・。ファントレイユ。
本当に、自分はそこそこしか剣が使えないとか、思っているの?」
ファントレイユはその、真面目な疑問に思わず真剣な顔をして言葉を探した。
「・・・まあ・・・そりゃあ、近衛に居れば、生き残る為には必要で私なりには頑張っていますが、天賦の才にも体格にも、それ程恵まれてはいませんしね・・・。
・・・マントレンは別にして。
彼は才能が全部頭脳に行ってしまって、剣と来たら、本当に、からっきし、どうしようも無い程使えませんから・・・・・・・・・」
ソルジェニーはマントレンの姿を思い出すと思わず、ファントレイユの言った事が理解出来て、心の底から、頷いた。
つづく。