1万人のマラソンストーリー ~vol.3~ | より速く、より強く、そして・・・より美しく!

より速く、より強く、そして・・・より美しく!

速いランナーになる為に必要なこと
強いランナーになる為に必要なこと
美しいランナーになる為に必要なこと

~すべては、ここから始まります~

これは、マラソンにチャレンジするランナーさん達の物語です。


<vol.3> ある女性タレントの挑戦 ~出会い~

「もうすぐ着きます。準備はいいですか?」

「いつもの、あれ、お願いしますね」

マネージャーの慶クンの声で、ふと我に返った。

今日から始めるマラソン練習のことよりも、午後の取材の為の

Q&Aシートが気になり、目を通していた私は、

慶クンの方を向いて、親指と人差し指で○を作り、

オッケーサインを出した。

私の特技は幾つかある。朝の身支度の早さもそのひとつだが、

現場でのスイッチの切り替えは、更にその上をいく。

タレント業をする者には当たり前の要素に思われがちだが、

意外に、この切り替えは難しい。

隠していたオーラを、一気に出す術は、ただ単に、

スイッチを入れれば良いというモノではない。

現場の雰囲気や共演者、司会者、撮影のスタッフ陣によって

どの程度のテンションで入り、いつから徐々にボリュームを上げて、

どのタイミングでMAXにするかを、瞬時に見極める力は

タレントの「能力」を露骨に反映する。

いきなりハイテンションで入って見事に撃沈したお笑い芸人や

若手タレントは、山ほどいる。

そうなると次のオファーが来にくくなるのは、言わずと知れたことだ。

私の場合、無頓着のようで、実は、雰囲気を読む力と

人を見る目は昔から備わっているようで、

デビュー後2~3年が経った頃から評価を受けることが多かった。

「ここです。今日は、ここで顔合わせして、練習をします」

「葵さん、ここに来たことありますか?」

「ここは、初心者でも走りやすいんだそうです」

慶クンの言葉に、耳を傾けながら、窓から外を眺めてみる。

「ここは・・・確か、以前に・・・」

なんとなく見覚えがある場所だというのが分かった。


車が駐車場に入り、間もなくして停まる。スライド式のドアが自動で開く。

車から降りて辺りを見渡してみた。そこは駒沢公園だった。

駒沢公園には、5年くらい前にスポーツイベントに呼ばれて来たことがある。

その時は、プレゼンター的なお仕事だったので、

スポーツウェアを着ることもなかったし、カラダを動かす事もなかった。

「以前に来たことがあるわ。良く覚えていないけど」

「ランナーには、人気があるのは知ってるわよ」

「週末は、ランナーで行列が出来るんでしょ」

「そんなに夢中になるなんて今の私には考えられないけど」

「トレーナーさんは、もう来てるの?」

私の問いかけに、慶クンは、目線を変えて答えてくれた。

慶クンの目線の先を追うと、駐車場の数台あけた向こうに、

白いポルシェと真っ赤なアウディが停まっていた。

ポルシェケイマンには、男性が二人乗っていて、

アウディR8には、女性が二人乗っていた。

こんなに朝早くから、こんなに派手な車が2台停まっているなんて。

きっと関係者に違いない。どんな業界人が出てくるのか。

私たちの到着を確認したのだろう、2台の車の中から

人が降りてきた。

「男性の一人が、トレーナーの西條さんです」

「もう一人の背が高くスーツの人が彼のマネージャーの神崎さん」

「女性は、二人とも、西條さんのアシスタントだと思います」

慶クンが、さりげなく私に話しかける

私は、それには、反応しないで、ある一点を見つめていた。

「おはようございます。早朝からご苦労様です」

「今日は、宜しくお願いします」

「こちらが、今回お世話になるトレントの山上葵です」

慶クンが、私を紹介する。

「はじめまして山上です。ヨロシクお願いします」

私は、目線を変えずに挨拶をした。

あれ、この男性(ヒト)以前見たことがあるかも…。

うんうん、やっぱり、どっかで見たことあるなぁ。

どこで会ったのかなぁ、えーと、えーと…。

最高の笑顔を作って皆に挨拶をしながらも、私は、ずっと

記憶の引き出しから、目の前に立っている男性の顔と名前の

マッチング作業を始めた。

「はじめまして、私、西條のマネージャーの神崎と申します」

「山上さんのご活躍はいつも拝見しております」

「今回は、うちの西條を使って頂いてありがとうございます」

「今日からは、レースまで、しっかりサポートさせて頂きます」

「西條は、絶対に体調を崩させないでマラソンを完走させるプロです」

「どうぞ、ご安心なさってください」

マネージャーの名前は、神崎信也。40代後半と言ったところだろうか。

顔立ちはなかなか男前である。上川隆也に似ていると言えば似ている。

業界慣れしているらしく、そつなく挨拶を済ませ、爽やかな笑顔で

私に話しかけてきた。

胡散臭さはないところを見ると、この人も元々スポーツ選手かしら。

テニス?サッカー?スキー?武道系ではないわね。

イイ男がイイ男のマネージャーをするなんて珍しいけど…

「あっ、それから、西條には、常にアシスタントがついています」

「私が、毎回帯同できないので、マネージャー代わりでもあります」

「紹介させて頂くと…こちらは、泰永寿子(やすながひさこ)と言います」

「そして、こちらが、佐藤弥生(さとうやよい)です」

「泰永は、元々はアスリートで、実業団選手として活躍していました」

「佐藤は、運動経験はありませんが、トレーナーの資格を持っています」

「二人とも、西條のアシスタント歴は、1年くらいです」

泰永の身長は、165㎝、体重53㎏。ポニーテールにした髪が似合う

キュートな女性だ。いかにも元アスリートという雰囲気がある。

一方、佐藤は、156㎝、43㎏と少し小柄だか、スタイルは抜群。

スポーツウェア越しにも、メリハリのあるボディラインが分かる。

この雰囲気でトレーナーをやられたら、世の男性が黙っていないよな、きっと。

女の私から見ても、女としての魅力を感じる。

こりゃー、なかなか面白そうなメンバーが揃ったぞ。

半年間飽きずに済みそうだわ。

そう思った瞬間に、記憶の引き出しから一枚の光景が蘇ってきた。

あー、やっぱり、私、この人と会ったことあるぅ。

朱美さんのパーティーで会ったんだ。

朱美さんとは、仲代朱美(なかだいあけみ)と言って

ある中堅出版社の女社長だ。

自分の楽しみなのか、人の為なのか分からないけど、

仲の良い友人を誘っては、毎月行っているパーティーで会ったんだ。

私は、レゲーパーティーの時に、この人に会っているんだ。

やっと思い出したぁ。あー、なんかスッキリした。

「じゃあ、本人から挨拶を…」

神崎さんが、横を見て、目で合図する。

徳永英明似のトレーナーが、初めて口を開いた。

「はじめまして、西條充です。よろしくおねがいします」

あー、やっぱりー、この声聞き覚えがあるー。

絶対に、あの時のパーティーに居た人だぁ。

「早速ですが、私は、何てお呼びすれば良いですか?」

えっ、呼び方・・・。あ、アオイでいいです。

「じゃあ、アオイさんと呼ばせて頂きます」

「では、アオイさんにお願いがあります」

なになに、いきなり、何を言うの・・・

「今日から約半年間、練習だけでなく、生活面でもアドバイスします」

「体調面では、女性ならではのカラダの変化にも触れます」

「生理の周期なども細かく報告して頂きます」

「その時々のカラダの変化に応じて体調に合った練習をします」

「細かい体調チェックが、カラダを壊さずに継続して走る秘訣です」

あっ、はい・・・。でも、ちょっと、恥ずかしいなぁ・・・

「マラソンは、単純な競技ですが、簡単ではありません」

「体は、重いよりも軽い方が良い」

「筋肉は、硬いよりも柔らかい方が良い」

「お尻は、大きいよりも小さい方が良い」

「性格は、せっかちよりも、マイペースな方が良い」

「喜怒哀楽は無い方が良い。でも、負けん気はあった方が良い、など」

「様々な要因が絡み合って、ゴールまでたどり着く力になります」

「パッと見たところ、アオイさんの体脂肪は、23%くらいありますね」

えっ?なんでわかるの。今はそれくらいあるのよね。

「それを2ヶ月毎に4%ずつ落としていきます」

「半年後には、10%前後を目標にします」

「でも、きっと、アオイさんは、9%くらいになると思います」

えーーー!10%切るって。アスリートみたいになるってこと。

「見たところ、お腹周りや太腿に比べてお尻に脂肪がついています」

「太腿と比例した大きさになるだけで、キュッと締まったお尻になります」

「今のサイズより、ツーサイズ小さくなりますよ」

うそでしょー。そんなの信じないもん。

私をその気にさせてノセようとしてるんでしょー。

そんな体型になる訳ないじゃんねー。だって、私、アラサーよアラサー。

余計なお肉をぶら下げはじめるのがアラサーなのよ。

ツーサイズもダウンしたら、10年ぶりにモデルだって出来ちゃうじゃん。

いやいや、私は、そんな言葉にノセられたりしないもん。

「アオイさんなら出来ますよ」

「必ず出来る」

「だって顔に出来るって書いてありますよ」

えっ、顔に・・・。思わず手を顔に当ててしまった私。

その瞬間、そこに居た皆が、私を見て、笑った。

どうして、私が出来るって思うんですか?

何を見て思うのか教えて貰えますか?

私は、この際だから訊いてみようと思った。

「はい、負けん気の強さが、顔のある部分に出ているから」

「負けん気の強さは、カラダを絞るには大事な要素です」

「そして、マラソンを走るのにも欠かせないものです」

「もうひとつ、教えますね」

「アオイさんの足首を見れば、どの程度絞れるか分かるんです」

「足首は、女性の本当のスタイルが出るんです」

「足首を見れば、太腿のサイズ、ウエストのサイズ」

「そして、お尻がどこまで小さくなるか分かるんですよ」

「アオイさんの足首は、キュッと締まっていて」

「とてもスッキリしています」

「だから、太腿とお尻もキレイなラインが出せますよ」

なんだか、キツネにつままれた感じだけど悪い気はしない。

ひょっとして、この人は、私の本当の目的が分かっているのかも。

一発で性格まで見極めるなんて、なんか怖いけど・・・

でもでもでも、もう一度、10年前の私に戻れるなら・・・

信じて頑張ってみよかしら…

すっかり、その気になってしまったアラサータレント山上葵なのでした。


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