東京のマンションを引き払う。何だか、計算すると二十年居たことになるのだが、わたしの頭の中では十年ぐらいの計算で、十年分がすっぽりと抜けている(笑)八月二日に脳溢血になり、ずっと帰宅していない。帰るつもりでいたが、無理だった。


結局、八月二日朝に家を出てきたままで、引越し業者にすべて頼むことになった。


引越し業者も大変だと思う。大量の本と、仕事関連の資料、CD、CDR、昔のMOもある。ほとんど全てを廃棄処分してもらう。PC関係も棄ててないのが五台はある。大量断捨離である。


何を断捨離するか、わたしは関与することができないので不安ではある。


わたしにとっては貴重なサイン本や、貴重な古本のたぐいもある。


一番厄介なのは、エッチ関係の写真や本、コスプレ関係の諸々である。二十年も居れば、その手のものが増えてくる。意識が遠退いたとき、この世から消えて欲しかったのは、それらのものである。


まあ、わたしの身体ごと消えてしまえば問題はないのだが…。
昔に文通していたときにもらった手紙の類いもある。仕事に続いて、住居も無くなったことになる。


健康な身体を無くしているから、これ以上何を無くしても、心は平常心でいたいと思う。が無くなってしまったものが余りに多い。無を無化して、行き着くところはどこなのだろう。頭の中が迷路だわ。


東京自体は、三十何年いたことになる。東京よ、ありがとう、という気持ちである。
今日は桃太郎とその一味による鬼ヶ島における大虐殺の裁判が結審する日だった。注目の裁判だけあって、多くのマスコミが集まっていた。


裁判長のマントヒヒが、何か最後に言っておきたいことがあるかと、桃太郎に言った。


「裁判長殿、長い裁判において、検察側が立証してきた大虐殺の罪、財宝を収奪したる罪など事実であります」
申し訳ありません、と罪を認めて、桃太郎は一礼した。


「しかし、ワタシの言い訳のようなものも洗いざらい述べておきたい」桃太郎の目には狂気の色が一瞬浮かんだ。


「ワタシは、裁判所にいる育ててくれたお爺様とおばあ様に誘拐されてきた者です。だって、そうでしょう。川に流れてきた桃を切ったら、赤子が出てきたなんて、あるわけないじゃないですか。あの育ての親は人さらいです」桃太郎は決然と言い放った。


「そして、育ての親に唆されて、鬼退治に行くことになりました。それも吉備団子を持たされて、猿や雉を家来に従えて、あの馬鹿どもが鬼退治の役にたつと本当に思いますか」猿や雉が呆然としていた。


「吉備団子だけて、ノコノコついてくるなんで、アホ丸出しです。鬼の持っていたお宝だって、たいしたことありませんでした。下界じゃ、何だか『鬼滅の刃』とかいう鬼退治ものがヒーローみたいに扱われているまたいです。ワタシも同じような鬼を退治するなら、あのくらい洗練されて欲しかった。鬼滅隊とかカッコイイし、ワタシの活躍など、猿と雉と同格です。いや、それ以下です」と桃太郎は号泣した。


桃太郎には、死刑が言い渡され、家来たちには無期懲役が言い渡された。
スペンサー卿は、サー・アイザック・ニュートンの仮説を考えていた。


なんだか分からないが、その仮説を林檎が落下するのを見ていて、閃いたという。林檎は、ジャムにするか、アップルパイにして食べると決まっておる。ワシは、イチゴジャムの方が好きで、林檎は嫌いなのだ。


林檎は、人を惑わせる禁断の実と決まっている。アダムとイヴが手を伸ばして食べて、楽園を追放されたのを見ても、禁断の果実であることが証明されよう。


あやつ、最近では錬金術や霊魂の研究にものめり込んでいるという。イギリス王立国教会にも、頻繁に出入りしていると聞く。政治に疎いと見せて、なかなかの食わせ者じゃわい。


さて、なんだっけ? そう、そう、万有引力というのが、あるという話じゃったな。地球と林檎が互いに引き合っていると言いおる。大地と林檎の実が引き合っているなどと、馬鹿馬鹿しい話に付き合ってはいられないわ。王立科学アカデミーの評議委員の面々には、わしの方から意見を具申しておこう。


「スペンサー卿、今日は天気が良いですね」


「これは、これは、ニュートン君。万有引力があるというのは、とても刺激的なお話しですな」


「男女が惹かれ合うように、地球と林檎が引き合うのに何の不思議もありません。天体の動きは宿命のように定められております」
ニュートンは、目を輝かせながらスペンサー卿の前から立ち去った。


あやつ、男女が惹き合うのと、天体の引き合うのが同じだと言いおったわい。


後日、スペンサー卿の元には、何故かイチゴがニュートンから贈られてきた。


ニュートンは、スペンサー卿の推挙もあり、ほどなくしてケンブリッジ大学のルーカス教授職に就任した。