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中山七里氏の「魔女は甦る」(幻冬舎)を読んだ。


第六回「このミステリーがすごい!大賞」で最終審査に残ったミステリー小説です。個人的には「連続殺人鬼カエル男」より、こちらの方が面白く、好きな話です。


埼玉県の小さな村の沼地で惨殺死体が発見される。あまりの死体の状態に身元も不明だったが、槇畑刑事は歯医者の診察券から死体の身元が沼地の近くにあった製薬会社スタンバーグ社で研究員として勤務していた桐生隆であると特定する。

桐生隆の人物像を歯科医に尋ねると温厚で、誰にでも笑顔で接する人物で、誰かの恨みを買う人物ではないと聞くが、その研究対象には極端な考え方があり「僕だって魔女の末裔ですよ」というのが桐生と交わした最後の言葉だったことを槇畑は知る。


一方、沼地の周辺では、幼児の行方不明事件も発生して、惨殺事件と行方不明事件のつながりをめぐって捜査陣は混乱する。槇畑は、惨殺事件の被害者桐生隆の人物像に違和感を感じ、その人物の真相を追い詰めていくが、彼の勤めていたスタンバーグ社が、薬物中毒患者が都内で起こした三件の凶行に関係しているかも知れないことを突き止めるのが…、桐生隆惨殺の意外な犯人の真相が浮かび上がってくるというストーリーであります。


捜査に邁進する槇畑、渡瀬、古手川、宮條それぞれの刑事たちの人物像や、抱えている心の傷などがよく描かれており、ストーリーにさまざまな陰影を効果的に与えています。


とくに槇畑と宮條の警察にとっての正義、個人にとっての正義とは何か、に対する考え方の違いと姿勢の対立が面白かったです。二人が一緒に事件を捜査することで、渡瀬の教え子である二人が徐々に互いを理解していくところなど感動するところも多くありました。

惨殺された桐生の恋人である美里の存在も物語の重要な要素となっています。ツンツンとした性格が萌えるところであります。


物語の後半、ミステリーから暗転、ホラー的な様相、展開を示してきますが、作者の意外な展開と読むものを飽きさせないという姿勢が見事な効果を上げていると思います。


槇畑のあの時は護れなかった者を、いまは護りたいという必死な闘いにハラハラドキドキしました。美里も無事でハッピーエンドでも良いかな、とは思いますが、最後の結末の恐怖感もなかなか効果的でした。


魔女の化身、あるいは召し使いであるカラスが、歴史的に魔女たちを火炙り、迫害した人間たちに攻撃してくるという象徴的図式、人間の思い上がりが、人間たちに牙を剥き戻ってくることがあるという教訓的な部分も面白いと思いました。

外資企業や国家による陰謀モノという設定は確かに手垢のついたテーマでもありますが、生態系の問題や、最新のドラッグに対する考え方をエンターテインメントとして昇華した作品に仕上がっていますし、飽きずに面白く最後まで読み通せました。


第六回このミスの受賞作は拓未司氏の「禁断のパンダ」のようですが、中山氏の作品を抑えて受賞したのミス作品も読んでみたいですね。
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薬丸岳氏の「天使のナイフ」(講談社)を読んだ。


第五十一回江戸川乱歩賞を受賞した社会派推理小説です。


少年法に守られた加害者である少年たちと被害者遺族との関係を軸に、加害者である少年たちにとっての更正や贖罪とは何か、犯罪被害者の悲しみやプライバシーの問題などを真摯に取り上げ、社会ドラマとしても意外な結末へと導くエンターテイメント性の高い内容の小説です。


埼玉県の大宮でカフェのオーナー店長をしている桧山は、保育園に通う娘愛実と二人で静かに過していた。桧山の妻祥子は、娘が赤ん坊のときに中学生の男三人が部屋に押し入り刺殺された過去を抱えていた。


桧山は被害者には家裁の審判や、更正の様子、加害者の情報が一切知らされない少年法の制度に疑問を抱き、自分が彼らを裁きたいとマスコミの前で発言していた。


そんな桧山の日常を壊すように、桧山の妻を殺した少年の一人が、桧山の店の近くの公園で何者かに殺されるという事件が発生する。

桧山を疑う祥子の事件も担当した刑事の三枝が桧山のもとを訪れるが、この事件をきっかけに祥子を殺害した事件の真相も明らかになっていくのだが…というストーリーであります。


妻の命が少年たちによって奪われてしまった犯罪被害者の主人公桧山が、娘の愛実が大きくなったとき、母親のことをどう伝えられるのか、という強い思いが事件の真相の意外な部分を暴いていきますが、それは被害者の桧山にとっても辛い事実であるところが、この小説にさらなる厚みを与えています。


まあ、ちょっと登場する人物たちが誰も彼も色々と犯罪に手を染めすぎて、都合のよい展開過ぎる嫌いはありますが、映像化したら面白い展開かなと思います。

保育園の先生みゆき、フリーライターの貫井、アルバイトの歩美、少年A、B、Cたちの人物たちの描き方、心情の機微の描写なども丁寧に描いていて、それぞれのキャラが立っていて読みやすい内容になっていますし、作者は映画が好きなようで、全体に映像としてイメージしやすい構成になっていると思います。


ただ、惹き起こされる少年の犯罪の根本的な動機が、どれもこれも短絡的、享楽的なものが多く、新鮮味を感じませんでした。


少年法が成立した当時の社会背景に根差したような犯罪動機が多いので、現在の少年法改正の是非のような複雑な社会に根差す、精神的な問題、猟奇化する犯罪を想定するものではなく、社会派的な論点では陳腐さが浮き彫りになってしまう気がします。


少年法の改正による少年犯罪の厳罰化も、この小説が発表されてからも進んでいますし、少年犯罪の凶悪化、特殊化によって社会的には今後もさらなる少年犯罪に対する厳罰化は進んでいくと思います。


小説の中で描かれていた時代より、さらに少年法に対する風当たりは強くなっていますし、少年を含む人間全体を取り巻く社会のあり方自体が複雑化、混迷化しているのが現状です。


しかし、このように重いテーマを織り込みならが、エンターテイメントとして小説化した筆力は凄いと思います。


乱歩賞受賞作では「テロリストのパラソル」を読んだとき以来の重厚な読後感でした。


お母さんの形見である愛実ちゃんの大好きな作家ものの万華鏡が事件のつながりにヒントを与えてくれます。
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恩田陸氏の「Q&A」(幻冬社)を読んだ。


都内のショッピングセンターMで起きた大事故の真相を探ろうと事故の関係者や生き残った人たちにインタビューをしていく形で進んでいく小説であります。


その事故には、はっきりした原因がなく、最初は火事か、劇薬を撒かれたテロではないかとされていたが、多数の人たちが死んだ原因がパニックに陥った客がエスカレーターに殺到し、圧死してしまったものだった。


パニックが起きた引き金は複数あり、その一つ一つはたいしたことでないことが段々と明らかになっていくのだが、原因に対して大きくなってしまった被害の結果に関係者たちは誰もはっきりした答えを用意できなかった…というストーリー展開になっています。


原因なき事故の真相を関係者たちの証言から明らかにしていこうとする内容ですが、事故の風化や、関係者たちの人生が事故によってさまざまな歪みをみせていくなど、事故そのものがさまざまな形で影響し、波紋を拡げることにも焦点をあてています。


読んでいて、オウム真理教によるテロを扱った村上春樹氏のノンフィクション「アンダーグラウンド」を読んでいるみたいだなと感じました。


この小説の内容も、Mの事故が都市伝説的になってきたり、なにものかによる陰謀説がでてきたり、と混沌とした様相、宗教的な様相を帯びてきたりします。


人間の漠然とした思い込みや信念が、本来的な原因や真相を時間の進行とともに見えにくくしていくことがあり、真実の姿を歪めていくことが本人たちの本意ではなくあることがあることを教えてくれます。


実際の事件や事故、人間の行動においてもままあることであると思いますし、人間は都合のよいように物語をつくっていく習性をもつ動物なのであると思います。


人間の心についた大小の傷、ダメージに人間はどのように立ち向かうのか? といった主題も織り込まれていると思います。PTSDを負った人間が、その記憶の生々しさからいかに脱することができるか、その難しさは、この小説の中に描かれている事故の真相を明らかにすることの難しさとなって象徴されています。

スーパーMは墓石のようだと色んな証言者が思うように、人間の心の形はスーパーMのような無機質で、何かを惹き起こすようなあり方、あり様を示す墓石のようなものかもしれません。

安心、安全なインフラの上に築かれた日常が暗転し、非日常の中に投げ出された時の人間そのものの脆弱さ、恐ろしさが淡々とした証言によって徐々に赤裸々にされていく様子は、ホラー的な恐怖も感じさせます。

原因不明の事故が発生したスーパーMは更地になり、外国資本が入って大型ショッピングセンターとして生まれ変わりますが、個人的には、大事故を惹き起こしたのは、日本進出を企んでいた外国資本の陰謀だったんじゃないかと思えます。

そういう意味では、スーパーMは、日本人の精神的墓標だったのではないか、という読み方もできます。やっぱり陰謀説を好む志向って色々な妄想を拗らす原因ですね(笑)