暗黒の宇宙が窓外には拡がっていた。アメリカ・中国・日本の共同プロジェクトである外惑星探索計画の終わりが近づいていた。Nは、宇宙の暗闇を凝視しながら遠く地球に置いてきた病に苦しむ息子のことを思っていた。


突然、艦内にけたたましい警告音が鳴り響いた。Nは、情報マルチモニターを確認した。そこには、想定外の物体が接近中と出ていた。


外惑星軌道で、物体に遭遇するなんて、あり得ないとNは思った。一体、何なのかNには分からなかった。宇宙船の前方に巨大な壁みたいなものが立ち塞がった。


この壁みたいなものは、一体なんだ。Nは、地球のメインコンピューターにアクセスした。回答不能と返してきた。


Nは、異星人の宇宙船と遭遇したのかと戦慄した。
そのうち、頭のなかに、声のようなものが聞こえた。

最初は何かのノイズだと思ったが、それは明らかに自分向けに発せられているものだ。


「ここまで、遥々と旅してきたお前の望みをひとつ叶えよう。しかし、ここに壁があることも、私がいることも永遠の秘密だ」


Nは、望みをひとつ告げた。次の瞬間、その壁が大きくせりだし、その全貌がNに明らかになった。


それは、大きな象の足であり、その象を支えているのは亀であった。地球はどこにあるのか? Nは気が遠退くのを感じた。大昔の宇宙観が夢物語じゃなく本当のことだったのだ。


それから、しばらくしてNの乗った宇宙船との連絡は途絶えた。


Nの息子は、難病が治り、奇跡が起きたと言われた。いまも、Nの乗った宇宙船は、宇宙の闇を漂っている。
今日は、左の手と足が妙に重いし、左肩も痛い。左の手と足が元通りのような状態になるのは、難しいだろう。慢性的な痛みを取り除く、良い方法はあるのだろうか。


八月からハードなリハビリが続いているので、身体のあっちこっちが悲鳴を上げているのかもしれない。


リハビリをしていても、目に見えて機能が回復していることを実感することも、最近は少なくなってきているような気がする。


これからは、身体を誤魔化し、誤魔化しやるしかないかもしれない。


すっかり、見たこともない入院患者ばかりになっていて、例外を除けば、一番の古株になっていた。なんか実感が今一つわいてこないのだ。十二月で、外は寒い、コロナで危険を感じるというが、今一つピンときていないのが本当のところなのかもしれない。


時間も何もかも、八月二日から私のなかでは、すべてが停止しているのかもしれない。社会復帰できるか、心配もあるが、諦めている部分もある。


どうにか生き残ったけど、病院を退院してから、考えることがたくさんありそうだ。


昔の学友で、銀行に勤めていたけど、車の大きな事故に遭い、生死をさ迷った末、突然陶芸をやると銀行を辞めたのがいたけど、いまならその行動の意味が、分かる気がする。


いつか死ぬなら、やりたいことをやってみるのもありだとは思う。
紀元前◯◯年、西域のとあるところに兄弟同士が治め隣あう王国がありました。

兄はいつもぴりぴりしており、臣下も、民も王の憤怒にビクビクしていました。そして、王のことを陰でこう呼んでいました。屁こき野郎と。


王は肛門が弛く、いつも屁をこきながら、歩いていたからです。屁こき王国と揶揄されていました。


一方、弟は大食漢で、臣下たちは食糧を調達するのにいつも四苦八苦していました。王は、自分の好きな食べ物をきらすと、臣下の馘を跳ねました。その容姿が、大きなチャウチャウ犬に似ていたので、隣国は、チャウチャウ王国と呼んで蔑んでいました。王の容貌から、愁いの王とも呼ばれていました。


こんな王国の民の暮らしは、悲惨なものです。年貢は年々上がっていくばかりで、少しも暮らしは楽になりません。民たちは、王たちがいなくなればいいのにと、謀を企てたりしましたが、いつも潰され、その首謀者は野に晒され、禿鷹の餌にされました。

ある年に、東方の彼方から黒々した雲のようなものが、兄弟の国を目掛けて迫ってやってきました。臣下も、民も少ない荷物を荷車に載せて逃げ出していきます。王宮には、屁こき野郎とチャウチャウ野郎だけがいました。黒い影に包まれる王たちは、恐怖に脅え、泣きじゃくりました。


黒い影の正体は大蝗の大軍でした。大蝗は、国土のすべてのものを食いつくして、移動していたのです。
あとには、屁こきの王様とチャウチャウ王の骨だけが残されました。


聖域の激しい砂嵐に埋没して、そこに王国があった記録も、遺構もいまは残ってはいません。