先日、お隣の大統領が当地の独立系ジャーナリスト数名のインタビューを受けました。お隣の大統領は、国内外のプレスのインタビューも積極的に受け、自身のビデオメッセージも発信し、また各国議会でのオンライン演説など、一日中しゃべり続けているのではないかと思われるほどです。そんな中で敵国のインタビューを受けるというのは、大変珍しいケースでもあり、興味深く拝見しました。当地語で行われたインタビューでは、お隣と当地の関係の今後や、ここに至った経緯など、非常に内容豊かでした。ですが、初めのほうで非常にショックの強いエピソードが紹介されています。それは・・・亡くなった兵士の扱いです。

 

お隣はEU加盟がかかっていることもあり、現場の兵士が行き過ぎたふるまいをしないよう、折に触れて指示を出しています。スマホで捕虜を撮影するなどの行為も、最近では見られなくなりました。その撮影した捕虜のエピソードも、公開されているものでは主には「故国の家族に電話をかけさせ、どこにいて何をしているかを話させる」というものです。

 

お隣は、当地で情報がきちんと伝えられていないことを察知し、すぐに行方不明兵士のためのホットラインを設立して宣伝に励みました。これは非常によく利用されるものとなり、とくに期間召集兵として徴兵された兵士の親族が、2月24日以降連絡が取れないと、相談の電話をかけてくるようになりました。当地からも、また、当地の身内の依頼を受けたお隣からも、第三国からもです。お隣では、捕虜兵士はもとより、戦死した兵士についても、身分証明書などから情報を集めてデータベースにしており、死亡兵士については親族が引き取りにくれば引き渡す とも言っています。お隣にとっては、プロパガンダに洗脳されている当地の人々の目を開くチャンスでもあるととらえているからです。

 

その人数ですが、お隣は17000人以上と言っています。米国などでは、もう少し少ない数を見積もっているようです。いっとき、当地のマスコミに9000人という数字が出ましたが削除されました。状況が状況ですので、正確な数字を把握することは難しいとは思います。が、当地国防省が発表する1300人というのは、どうも過小評価が過ぎるような気がします。

 

何はともあれ、お隣は捕虜と死亡者の名簿を作成し、当地側に提出しているそうです。捕虜については、同人数を順次交換し、死亡者については、当地側に引き取りをお願いしたところ、難色を示され、最後には「袋」の提供を提案されたと。これには報告を受けた大統領も目が点と言いますか、「知らない人でさえも、いや、犬や猫でさえも…」とインタビューで絶句しておられました。

 

これはノーベル平和賞を受賞された、今は活動中断中の新聞の編集長が別のインタビューで話していた内容なのですが、ある地方都市出身の兵士の親族が、「亡くなった」という連絡を受け、とにもかくにも埋葬の手配をして、お墓を掘って待っていたら―亡骸を「無くした」という連絡が入って途方に暮れていると。亡くなった場所や日時もあいまいながら、「特別軍事作戦」であることはほぼ確実とのことです。

 

仮に当地が「ナチス主義のお隣政権を無害化する」などという崇高な目的を掲げて特別軍事作戦を開始したのならば、なぜその過程で無念の死を遂げた人を隠すのでしょうか。その人数も、名前も、所属も、出身もです。対内的には、敵の手にかかって死んだ人数は1300名と報告し、対外的には「袋」の提供を申し出るとは、亡くなった当地の方々を何だと思っているのでしょうか。

 

「貨物二百号」という表現があります。戦地から戻る死体を、亜鉛でふさいだ棺で運ぶことを言います。過去に当地が起こした戦争では、貨物二百号が戻ってきていましたがー今回は「袋」です。そして何個の「袋」が使われたのか、どこの誰がその「袋」に入っている可能性があるのか、知ることは当地の公開情報からは、ほぼ不可能です。お隣の公開情報に頼るよりありません。

 

お隣大統領も絶句していましたが、私も何も言うことができません。ただ悲しく、憤りを感じるのみです。

 

最後に、このインタビューは当地お役所により、当地での公開を禁止されています。

当地で「特別軍事作戦」の支持者が意外と多くて驚きます。在留外国人の目から見ても、一部の当地人の目から見ても、作戦の意義がいまいちわからないからです。

 

これは当地でいわゆるタカ派の論客も指摘していたことです。その方の指摘によると、当地が占領したお隣東部地域で、本当に当地を支持している人は少なく、無関心と合わせて3割程度、7割が明白にお隣への回復を望み、当地軍と支持者のほうが小さくなっているそうです。だったらさっさと撤退すれば、と言いたいのを我慢してさらにその方の記事を読むと、7割のお隣支持派は、「お隣に所属していれば、汚職はなく、いずれEUに加盟することもでき、EUに加盟できれば、数々の支援プログラムを利用できたり、貿易上の制限もなくなり、生産物などを輸出して豊かになれる」という具体的な未来図を「吹き込まれ」ており、当地軍の到来は待ち望んでもいなかった。返す当地軍は、「解放に参りました!」という以外、何の価値観も提示できず、ロシアに所属することで得られるメリットが伝えられていないー というのです。ただ、論客の方もどのようなメリットがあるのかは示していませんでしたが…

 

作戦を支持し、遂行を声高に主張するタカ派の方でさえ、「ロシアによる統治のメリット」を提示できない、または、「ロシアが統治すること自体がメリット」としか主張できなければ、それがどんな影響を国民生活に及ぼすのか、国民には伝わりません。「伝える」ということを課題として取り組んできたお隣大統領は、価値観を提示し、理解を得るという成果をあげていました。最近お隣大統領のパロディコント(2月24日以前にTV放映されていたものを含め)をSNSで発見しましたが、こういうコントができるのも、メッセージをきちんと伝え、議論がなされている証拠だなと感じました。

 

比べて当地は…大統領が何をしたいのかが、いまいちわかりません。正確には、大統領が非常に権威主義であり、当地主導の影響圏を作ることに砕身しており、内面的には愛国主義、伝統的な家族(=いわゆるLGBTQの否定)、民主主義を尊重と言いながらも、実際は反対意見を表明すれば危険が迫る ということはわかります。ですが、それがどのようなメリットをもたらすのか?国民にとってどんな恩恵があるのか?にはつながりません。

 

しかしどういうわけか、その価値観と具体的な恩恵をつなげようという人は少なく、大統領の言うことは正しいと信じている人のほうが多いのです。大統領のカリスマ頼みともいえるでしょうか。これには、TVやラジオや新聞の情報を「信じる」のが常識だととらえる心理と、その情報、ひいては、大統領の発言を「疑う」ことをしないよう、21世紀に入ってから仕向けられてきた結果かと思われます。

 

作戦を指示している人の中には、「本心から支持する」、「お隣に迷惑をかけられていると感じているから支持する」といったグラデーションがあります。中でも「本心から支持する」人たちは、当地大統領が演説や閣僚への指示などで使う「お隣はナチス、過激派、大統領は麻薬中毒者で民族主義者で、バンデラ主義者だから、非ナチス化・非軍事化して、当地が指導しなくてはならない」というレトリックを真に受けて信じます。これに、潜在的なお隣蔑視が加わって、お隣にいる身内や知人との断絶を招く発言ー降参の奨励や、当地は救出に行っているとの勘違い解説―につながります。また、普段は大統領を信じていなかった人々も、「お隣によって迷惑を…」という逆恨みを経由して、お隣に関する大統領の発言を信じ、だからお隣は退治されて当然、と思うようになります。

 

このように、「大統領を信じる」ことが、この軍事作戦の高い支持率の源にもなっているようです。「信じる」ことだけが、作戦の目的の説明を代替しており、それだけで済ませてしまっていることも、それだけで済んでいることも、両方奇妙に思われます。お隣大統領はメッセージ発信に長けており、どんな価値観や目的で行動しているかが明確ですし、彼のチームも積極的に数字を利用したビジュアル情報を発信するなど、理解されやすい情報提供に取り組んでいますので、こちらを信じるのは、理解できるのですが…

「真実」を見極める訓練をさせられたのは、11年前の地震の時だと思います。それこそネットで入ってくる情報は玉石混交、情報は「隠されているものだ」本当は「もっとひどい」という雰囲気に押されて、「本当の」情報を求め続けました。しかし、「隠されている」情報の中に、死体が光ったとか津波は人口だとかなんか怪しげなエセ科学的な主張が目立つようになり、「隠されている」情報はないか、根拠薄弱だと思うようになりました。いくつかのソースを検討して、判断するのが妥当だと今では考えており、この異常事態でもそうしております。

 

当地においては、情報の隠匿というものは大いにあり得ることです。これは当地で暮らす上での大前提です。また、隠匿されている情報を演出する逆の例もあります。例えば、よい例が選挙です。票の水増しや改ざんが行われている―これは確かだと思います。また、組織的な投票をさせられていることも、具体例を耳にします。もし選挙結果を素直に受け止めれば、人々の当地政権への呪詛の声はこんなに聞こえてこないはずです。しかし、誰かがこっそり大量の投票用紙を入れている動画は、作ろうと思えばいくらでも作れるので、今回の選挙に関連するものなのかどうか、本当なのかに、いくばくかの疑問をもって接する必要があります。

 

しかし「情報は隠されている」というミステリー的な前提条件は、ある種の魅力を持っているようです。特に陰謀論を信じる方々によく言われる、「(禁句)はお隣が仕掛けた」ですとか、「本当はアメリカが(以下略」という意見ですが、それは本当のことなのか?と逆に問いかけると、「マスコミでは絶対に報じないから本当だ」 という答えが返ってきます。ずいぶん乱暴な根拠ですが、「情報が隠されている」というのが大前提なので、「真実の情報を報じる(最近禁止されたSNS)アカウント」なるものがもてはやされるのでしょう。アカウントでなくても、ジャーナリストでも、雑誌でもなんでもいいんですが。選挙のようなプロセスが一部ブラックボックスになっているところや、コロナウィルスのような、何が起きているのか目には見えない事件においては、この「隠された情報」の「信ぴょう性」は高まります。だって、本当に「わからない」のですから。

 

しかし…戦車が国境を越えて走っていくことや、空襲警報が発せられて市民が地下に逃げ込む、という事態は、あからさまに軍事的な大規模攻撃です。しかも大ボスが自ら早朝にメッセージを流して、「お行儀の悪いお隣を懲らしめに行きます」と言っているのですから、当地がお隣を攻撃しているのは、まがうことなき事実です。そして、破壊の範囲が、「高性能な兵器で正確に攻撃している」軍事拠点以上に広いのも、明確なように思います。これに、お隣に住んでいる方々の声を合わせますと、導き出される結論は…ご存じのとおりです。

 

それでも、「情報が隠されている」と頑なに信じる方々は、「当地軍の攻撃は精確だから、それ以外は全部お隣の自作自演」であり、「市民を攻撃しているのは、お隣の軍隊」だと言います。自分で新しく作った道路や病院や学校を、自分でわざわざ壊したり、自国民に危害を加えたりする軍隊を持つ国がどこにあるのか、問いただしたいところなのですが、これについても答えが用意されています―「お隣の政権は、ナチス主義者だから」

 

いわゆるナチス主義というのは、ある民族の優等生を確信し、それ以外を徹底的に差別・拒絶し、また殲滅させることまでをいうようですが、仮にお隣がナチス主義だとしたら、自分の国にいる自分の民族は優等であり、危害を加えてはならないはずなのですが、どこをどうやったらナチス主義のお隣政権が、自分の民族かつ国民を襲撃するのでしょうか。このように少し考えれば、ナチス主義者政権説も、高度に精確な攻撃説も、非常にあやふやになってきます。また、お隣において「ジェノサイド」が非常に難度の高いオペレーションであることは、すでに書いた通りです。

 

それでもTVを通じては「退却しながら市民を攻撃していったお隣軍隊の後始末をしている当地軍」のレポートや、テレビを見ない層のためにはSNSアカウントを経由して、「極端な民族主義者で、当地人だけを殺すウィルスを開発している危険なお隣」像を見せ、結果として軍事作戦は圧倒的に支持されているーという図が目の前にあり、非常な無力感を感じます。