中東といえば、アツアツの蒸気にあたる、いわゆるトルコ風呂で知られています。トルコ語ではHamamハマム、アラビア語でحمامハンマームというこのレジャー施設、シリアでは庶民生活に密着しており、ダマスカスの旧市街周辺にはそれこそ10カ所くらいも存在するのですが、残念ながら水の貴重なヨルダンでは、それほど一般的ではありません。
人口200万を誇る首都アンマンにさえ、庶民派ハンマームはダウンタウンにたった1カ所。あとは高級路線(観光路線)をゆくものが2カ所のみです。
ダウンタウンにあるハンマーム、アンナセル
حمام النصر
さて、このハンマーム、ダウンタウンにあるのですがこれが実に入りずらい。今でこそ歩き方に写真が載っているくらいですが、食料品スークの外側にあって、周りは露天商が所狭しと商品を広げており、それに埋もれる感じで入口がありました。この食料品スーク、屋根が架かっているので、フセインモスク横の屋根のないスークと区別するため、私と妻とは「屋根ありスーク」と呼んでいたのですが、毎週のようにここに食料を買いにいくのにも関わらず、住みはじめた半年間はこのハンマームの存在に気がつかなかったくらいです。
最初に気がついたのは、入口から見える壁にある右の絵。アラブでは珍しいことに絵が書いてあるなあ(イスラームでは偶像は好まれないため)と思っていたのですが、よく見るとなんだか変な絵、というかシャワーを浴びる男性とわかってきて、そのころにはアラビア語もわりと早く読めるようになってきたので、ここがナセルという名前のハンマームだということがわかったのです。
ちなみに左の写真はヨルダン国王のアブドゥッラー2世。どこの国でもトップの写真は偶像にあたらないようで...
中東に住みはじめて1年ほどたち、その間にジャバル・アンマンのアッパシャ・ターキッシュバス(高級路線のハンマーム)での本格的マッサージも、ダマスカス旧市街のハンマーム・アルバクリーでの庶民派ハンマーム体験も済ませたわけですが、このハンマーム・アンナセルにはどうしても行くことができませんでした。というのもこのスークにはよく買い物に行くのですが、夕方行くとハンマームが閉まっていることが多く、いつ営業しているのかいまいちよくわからず、なかなか腰があがらなかったこともありますが、それよりもなによりも、雑然としたたたずまいに恐れをなしていた、というのが正直なところです。まあ、ハンマームのなかには男色の巣窟といったところもあったり、アカスリしてもらったらお触りされ放題になったという話(もちろん相手も男)も聞いていたので。
滞在2年目の秋、集会所でうだうだと過ごしていた週末、ようやく何人かの同志と、じゃあ行ってみるかと、探検しにいくことになりました。そのころにはすでに他の好事家から、金曜でも朝からやっているらしい、内部はまあ汚くはない(ちょっと臭い)というレポートも聞いていたので(でもその人も、見ただけで利用はしていなかったが)
金曜の朝を選んだのは、イスラームの安息日にあたり、宵っ張りのヨルダン人がそんな朝からハンマームに出かけないだろう、だから混んでもいないし、まだ汚れてもいないだろうと踏んだからです。
入口を入ると横に階段があり、半地下の脱衣室に降りていく形です。脱衣室の入口にはまさにヨルダン人(でもパレスチナ人かな)といった風情のおじさんが鎮座しており、入浴料を払います。貴重品やモバイル(携帯)は鍵のかかる貴重品箱に入れてもらいます。まあ、シリアのハンマームでは貴重品預かりはスタンダードですが、ヨルダンでもちゃんとしているのにびっくり。そんなものないと思っていた私たちはみな所持金5JDくらいで、箱に入れるのはほとんど携帯だけといったところ。
料金は入浴が2.5JD、アカすりを頼むと0.5JD追加、マッサージはものすごーく高くて6JD、入浴後のバスタオルは無料ですが、体を洗うせっけんはオリーブ石けん1個と天然素材(ナツメヤシのヒゲだったか?)のスポンジがセットで0.5JD。せっけんは持ち込みでも可。だから2.5JDだけで自分で洗って帰ることもできます。
営業時間は朝7:00から夜19:00までですが、ラマダン中は日中の営業はなしで、日没後からとなるそうです。ちなみにここは男性のみで、女性はどんな時間帯でも利用できません。
さて、オープンサロンを兼ねた脱衣室で、着ているものを脱ぎます。係員が上手にタオルで下半身を隠してくれます。ヨルダン、シリアのハンマームでは基本的に水着は使わず、みんな真っ裸で入るのですが、イスラームでは同性同士でも局部をはだけるのはNGです。ここで巻かれるタオルはバスタオルのように大判ですが、薄い素材で、ハンマーム内でもつけたまま。アカすりやマッサージ時にも巻いたままです。
ハンマーム内部は、天井がドームになった大部屋のまわりに、スチーム室やらアカすり、マッサージ用の小部屋やら、シャワー室やらが並んでいる造りです。まずはスチーム室に入り、体を蒸します。なにしろドアがありませんから、日本のサウナほど高温にはなりません。
アカすりは最初に頼んでおくと、テキトーな時間にアカすり師がやってきて、写真の小部屋で体洗いからアカすりまでやってくれます。ちなみにアカすりはばかでかいグローブをはめてやってくれます。シリアではお金を払えば新しいグローブをおろしてくれますが、ここではそのまんまです。
私も含めて何人かアカすりを頼んでみましたが、1人ほど太もものアカすりの際、きわどいところまで手を入れられたということでした。まあ、その程度なら、大丈夫でしょう。ただ、狙われやすいと自覚している人は、複数人で行くことをお勧めします。
アカすりを終えれば、適宜終了。脱衣室に戻ればまた係員がこんどはバスタオルを巻いてくれ、お好きに休息することができます。一応、このハンマームでもシャイの提供はあるようです(有料)。もちろん、ヨルダン人大好きのペプシコーラ(国内に工場がある)もありました。
休日の金曜朝からのハンマームで、すっかり前夜の酒が抜け、すっきりとしたことはいうまでもありません。
ダマスカスのハンマームと比べると、あまり取り柄のないところですので、かなりのマニアにしかお薦めしません。特にハンマーム初めての人は、これがアラブのスタンダードとは思わないでくださいね。ちゃんとダマスのいいハンマームで体験してほしいものです。
まあ、寒い冬、ぬるいお湯がちょろちょろとしか出ない安宿のシャワーに我慢ができなくなったら、行ってみるといいでしょう。