随分前に、こんな本を読んだ。
三野 正洋
アメリカ海軍に学ぶ危機管理術―自己責任時代の生き方
米海軍の危機管理術について書かれていたものがあるが、ヒューマンエラー(人的ミス)の際の対処方法が、JR西日本とは全く逆であることが面白い。
例えば、こんなエピソードがある。
今まさに、空母に戦闘機が着艦体勢に入ったとき、新米水兵君、飛行甲板でボルトを一つなくしたことに気付いた。
さて、その水兵君、どうしたであろうか?
JR西日本の運転手みたいに、同僚に黙っていてくれって、頼んだのだろうか?
あるいは、上級士官に告げ口されないか、ヒヤヒヤしていたのだろうか?
答えは、新米水兵君、ただちに上級士官に報告した、である。
当然のごとく、着艦は直ちに中止、戦闘機は着艦間際で急上昇し、飛行甲板では甲板員総出で、ボルトの探索にあたり、落ちていたボルトの回収に成功、着艦が再開された。
さて、そのドジを踏んだ新米水兵君であるが、旧帝国海軍ならボコボコに殴られるか、あるいはJR西日本なら草むしり一週間の刑に処されるところであろうが、彼の場合は、処理後、艦長に呼び出されることになった。
もちろん、ぶん殴られるためではない。
艦長直々から『よく、正直に報告した』と、新米水兵君はお褒めの言葉を頂戴したのだ。
空母の艦長と言えば、新米水兵君からしたら、雲の上の人、大企業新入社員がいきなりCEOからお言葉を頂戴したようなものである。
彼が感激して、いっそう精進したのはいうまでもない。
『甘い』と言う方もいるだろう。しかし、空母に着艦する戦闘機は楽に100億円を超える。さらに、その戦闘機を操縦するパイロットは、極めて優れた適性と、多年にわたる厳しい訓練によって育成されたきた人間である。
空母への着艦は、時速300K以上で突入する『コントロールされた墜落』と呼ぶ専門家もいるほどである。
たとえ、小さなボルト一本たりとも飛行甲板に落ちていれば、たちまち大破炎上の大惨事となる。
それだけに、米海軍は『事故隠し』、『隠蔽体質』を何としても排除しなければならなかったのだろう。
それには、上記のような風通しの良い組織を作らなければならないし、その運用が成功するか否かは、最高責任者の判断如何である。
新米水兵君が正直に申告できたところを見ると、この努力は成功したようである。
JR西日本については、今回二つの大きなミスをしている。
一つは、言うまでもなくミスした運転手の『懲罰』である。これで、情報が上に上がらなくなってしまった。
二つ目は、何回もミスをする運転手がいたことである。これは、本人の運転手としての適性に問題があったということで、そのような人間を運転手に採用したとすれば、採用責任書に、より大きな責任があり、追及もしなければならない。
さて、JR西日はどのような『改善』をするつもりなのだろう?
これまた、しばらく注視する必要があるだろう。