ふと、思考がグルグルし始める。
なんてはないことで始まる。
例えば、キッチンが水滴だらけだった。布巾が洗われず、汚いまま放置されていた。いつものだらしなさを見たとき。
または、ただ急にこれまでのことが許せなくなったとき。
思考がグルグルして止まらないときは、頭のなかで何十何百と母親をコロした。
刃物で。傘で。箸やフォークで。
想像のなかで、母親は何故か素肌で、刺してめり込む箸やフォークの感触を、掌で感じたりもした。
寄生獣の1ページのようだと思った。
刑務所に入るのが絶対に厭だった訳ではない。
鬱々グータラな自分を、鬼教官に矯正して貰おうか。
犯罪者になるような、短気で単細胞な同じ穴のムジナ達と、居食を共にしてみて、無理ならクビを九九ろうか。
数年掛けて徐々に、腹の方は括れてしまった。
じゃあ何故実行に移さなかったのか。
理由は三つ。
一つ、悪人が自分だなんて、理不尽だと思ったから。
何故嫌いな奴の命を背負わなければいけないのか。
否、背負わされて生きなければならないのか。
二つ、母親が大人しくコロされる訳がなく、母親の体、皮膚、血液や体液に触ることにはなりそうだったから。
それは絶対に厭だった。
刑務所に入ることよりも。ジシよりも。
三つ。
機能不全家庭の自助グループで。
ポロっとこの気持ちを漏らしたとき、心から「分かる~~」と言いながら笑ってくれたひと達が居たから。
笑われて、張り詰めていたものが、抜けました。
笑われることが、こんな楽になれることなんて、知りませんでした。