ぬちゃり…。
スープに浸し過ぎたパンは食感など皆無でスープの味だけが口の中に溶けた。
(相変わらず濃いな…)
安っぽい味だ…塩気が強いだけの雑な味付け。
「飯塚と白木が殺された…だってさ」
薄いピンクのトレイに濃い色のスープ、コッペパン二つ、バターを一つ乗せて、コーヒーを啜りながらいかにも軽薄そうな男…柊が声を掛けてきた。
「へぇ…死ねるんだね…私達って」
「そろそろ俺達にも命令来るかもよ?」
命令…あいつらを殺せって?。
効率的じゃないだろうよ。
「美咲…あいつらはなんで逃げたんだろうな…」
「さぁ…」
知らない…あいつらは勝手にいなくなり私を…。
「さぁ…ってお前は…三里とヤッてなかったか?」
「してたよ…恋人…だった訳だし」
無粋だが…正しい。
そんな時もあった。
「なぁ…三里と千草…なにか云ってなかったか?」
「………」
今思っても自分は信用されていなかった…徹底的に疎外されていた。
ぬくぬくとしたこの牢獄で満足している私は…三里の手助け一つ出来なかったし、今も出来ないだろうな…。
「まぁ…三里も…千草も…良くやるよ…本当」
「だね…」
ため息混じりに語る柊はパンをかじる。
「案外さ…」
「ん…?」
柊は遠い目をして云う…。
「美味い物が食いたくなっただけかもな…」
急いで飲むと喉が痛くなるくらい濃いスープを柊は飲み干した。
吐き出しそうになった愚痴も心の本音を押さえ込む様に…。
「んな訳無いでしょ…」
飽き飽きした毎日…逃れを知らない囚人。
「だからさ…」

『そんな突拍子もなく単純な理由かもよ…って事』

確かに…そう微かに思う待つ女。



「三…里…ゆる…じでぇ…」
命を奪わないでくれ…命乞いは無意味。
三里は生命の尊さも殺人の罪悪も全て無視しナイフを振るった。
息が切れ…酸素を欲しがる身体。
約20秒で生を取り戻す死体は戯言を繰り返す。
「三里ぉ…なんでこんな事するんだよぉ…」
「石塚…腹減った…休憩だ…」
三里はその場にへたり込んだ。
「痛いんだ…死ぬのは痛いんだよぉ…」
悲鳴を上げる不死…石塚は拘束されていた。
昨夜、石塚は勝利を確信していた。
何度殺されてもこちらは一度殺せば終われるからだ。
しかし…予想は外れた。
圧倒的な実力差…当てる事すらままならない攻撃。
生き返る度に堪え難い痛覚。
恐怖…それだけで不死の心は折れた、戦いを拒絶したくなった。
自ら降伏し拘束される事を選択した…待っていたのは拷問。
薄暗い部屋で逃れたかった苦痛が永遠に続く。
「石塚…美咲は元気か…?」
不意に問い掛けられた言葉。
美咲…。
「美咲…?…元気なんじゃないか…笑わなくなっていたが…」
「そか…美咲…笑わなくなったのか…」
蘇る回想…三里に後悔が押し寄せる。
「加奈子ちゃんの事があったから…か?」
「…当たり前だろ」
石塚も三里も沈黙した、美咲への懺悔…加奈子の惨劇。
「今からでも…帰らないか三里…」
「………」
「三里…美咲は…俺達は…」
「………」
沈黙は答えだ…。
帰らない…はっきりとした意思表示。
「三里…俺は死んでも良い…だが、痛いのは嫌だ…」
「大丈夫…次で最後だ…」
がちゃり。
鉄製の重い扉が開いた、食料を買いに行っていた千草だった…。
「三里ぉ…三里ぉ…三里ぉっ!!」
千草の右手にぶら下がる買い物袋…左手に持たれている…

チェーンソー。

「嫌だ…嫌だぁ…嫌だぁぁっ!」
千草は何もかもの感情を捨て、チェーンソーを三里を手渡した。
「石塚…飯塚と白木も降参して今の石塚みたいになったんだ…」
千草は淡々と説明していく…。
「安心しろ…首を切断出来れば…再生はしない…検証済みだ…」
千草は俯き目を逸らした…見ない振り…それが処世術だったから。
「俺…仲間になるよ…お前らの仲間になるから…」
歯がかちかちと音を立てる、それでも冷静を装う石塚は命乞う…『死にたくない』と。
ぶるるるる…。
重いエンジン音と甲高い機会音が鳴り響く。
回転する刃が首に近づく。
「なぁ…石塚…白木に聞いたよ…」
「や…嫌だぁ…」
「加奈子を犯すのを提案したのお前なんだってな…」
「違う…冗談だった…俺は…やってない…」
「………」
三里は振るった…重いチェーンソーを…。
肉片が飛び散り骨を少しづつ削る…。
惨劇…惨劇…惨劇。


『なぁ…美咲…』
『ん…?』
『ここから抜け出せる方法があるとして…』
『うん…』
『今、俺の手を取ったら一緒に抜け出せるとしたら美咲は…この手を握れるか…?』
『う~ん…まだ此処から出たい理由が私には無いかな…意外に満足してる…それに…』
『それに…?』
『三里がいるからさ』

美咲…あの時手を取ってくれたら引っ張れたんだぜ…あの時…。


転がる頭蓋…石塚の頭…。
「千草…懐かしいの思い出した…」
血まみれの身体で喰ってもコンビニのお握りはいつも通りの味で…。
「どんな事だ…?」
「いや…俺は振られたから…千草を選んだらしい…」
今日は嫌いな梅が中身でもすんなり喰えるほど疲労してるらしい…。
「ははは…酷いな…」
同じく疲労している千草が弱々しく笑う…。
不意に鉄製の扉が開いた。
「三里ぉ…眠れないよぉ…」
拙い声…舌足らずな口調。
「…今日は疲れた…千草に『して』もらえ…」
「いやっ…今日は三里と『する』のぉ~」
甘ったるい声…聞く度に後悔が再生される…。
「たく…俺かよ…」
頭を掻きむしり立ち上がるとその娘を抱き上げる。
「今日は良いが、こういうのしなくても平気になろうな…」

『加奈子』