澱む空気…静かなだけの夜だった。
夜風が生温くドロドロとしていた。
「まだ見付からないのか…?」
眠気覚ましにもならない砂糖まみれの缶コーヒーを愛飲しているそいつは云った。
「何がだよ…?」
正直に云えばそいつの云う言葉の意味する物は理解していたし、正しい解答も頭に浮かんでいた。
だが…。
「お前…まだそんななまくらの剣…ははは…」
「笑うなよ…これもなかなか切れ味良いんだぜ?」
過去との比較…追憶の再生。
「飲むか…?」
「ん…サンキュ」
手渡された缶チューハイ…安上がりな娯楽。
俺が良く飲んでいた物だ…。
「良く覚えてたな…千草」
「当たり前だろ…忘れてたがな…」
不死…死なない…それの代償と代価を払わなくなった俺達は自嘲した。
「後何人だ…」
「5人…だったな…確か」
「こいつで二人目…何回殺した…」
「数えてない…」
再生…それが不死、不死を殺す…死ぬまで殺す。
それが『死なない』人間を『死なす』方法。
「二人殺したら…命を粗末にしなくなるな…」
「………」
これから本番…そう覚悟した一夜。


低い態勢のままで突進し直径1メートル弱の刃、刀が横に振られた。
高速で光の尾を引いて一線を空に描く。
目測は腕の長さを足して2メートルは無い、引いた一歩で容易過ぎる回避だ…。
更に刀の通過と同時に前進し首筋の頸動脈を狙う。
噴き出した血液…刀を奪う事、蹴り飛ばす事を連動して行動する。
「千草!…どれくらいで再生出来る!」
「今ので2リットルは出血してないよ…1リットルの血液再生に掛かる時間は約20秒…もう来るぞ!」
千草は俺が奪った刀を持つと身構えた。
安い短刀で首を裂いた…しかしそれは数センチの傷でしかなく再生は刹那に完了していた。
「ちっ…」
意識した舌打ち、苛立ち…しかし脳は冴えている。
俺は突進と云う単純行動を選択、頭、首、心臓の即死を狙える部位だけを目標に全力疾走する。
頭は意外に回避がたやすく、心臓は動かれると骨が邪魔で厄介…狙うのは首のみ!。
相手はこちらの動きを観察…今だに手探りし見極めの段階から移行してはいない。
相手に向かって右サイドの好位置から短刀を斜めから振り上げる。
相手はその短刀を躊躇なく左腕で握り止めた…『命の粗末』だ…これだから不死は厄介だ。
握るとほぼ同時…右手を拳にし単純な殴打。
此処は冷静に短刀を捻り真上に人差し指から小指毎切り上げて切断。
更に軸にしていた左足で踏み出し後ろに回り込む…。
そのまま身体を回転させ胴体を切る…傷口はかなり広い、開いている左腕を突っ込み大腸を掴む…。
ずるずるずる…。
意外に長い腸を引きずり出し一歩後ろに引き距離を取る…。
「うぅぅ…」
相手は呻いた…しかし再生は既に開始されている。
「やっぱり即死が一番だな…」
相手…そいつはこちらを睨んでいる…が、よそ見はいけないな…。
ぐぎぃんっ!!
隙を見て接近した千明の刀が首を切断する為に深く皮膚と肉を絶つ…が骨は異常なまでに硬度があるせきとまる。
厄介だ…先程の様に関節を狙えば切断可能なのだが…。
「三里…少し休もう…再生に3分は掛かるから…」
「あぁ…」
千草は俺の名前を呼び問い掛けた…。
「指は…どうなる…?」
ゆったりとした歩みで一定の距離を取れる位置に集まる…。
「知ってるかい…女性に男性ホルモンを打ってると男性器は生えてくるってさ…」
「成る程…再生出来る…か?」
「そこらへんは微妙…かな」
驚異的な速度で傷口が塞がっていく…この間に心臓にナイフ刺して置けば…等も案はあったが刺したまま再生した…ほぼ無意味だった実例があった。
更に云えば銃は再生速度が速いため効果的ではなく…骨を砕けなかった…。
この不死とやらは『人体の欠損率』の方が重要であり、『ダメージの深さ』は余り重視されてはいないらしい。
「どう予想する…千草は…?」
「多分だけれど4本の指は『欠損した部分』として再生するだろうね…赤ん坊は最初は手足無いんだぞ?…再生可能さ…」
絶望だな…。
「もう立ち上がれみたいだな…」
「予想以上に速いね…欠損率が高いほど再生の速度も速まる…だね」
そいつは立ち上がる…何事も無かった如く。
「痛いなぁ…でも…まだまだ『死ねる』よ」
生えそろった左手を握り開きしながらそいつは語り、俺達を嘲笑する。
「そうかい…『死ねなく』なるまで『死なせて』やるから…安心してろよ」
俺は一歩踏み出し、再度疾駆する…三人目の不死を殺す為に…。
なんでこんな運命を…そう自分を呪いながら…。
なんであの時あの選択を…そう過去を再生しながら刃を鳴らす…。