隆「あっ…」
俺は、思わず声を上げた。
何故なら、夢に出てきたあの少女だったからだ。
綺麗な長めの黒髪、色白の肌、細い身体…それに、あの吸い込まれるような不思議な目。
違ったのは、制服を着ていることと…何故かヘッドホンをしていること。
千「可愛い…」
通路を挟んだ横の席に座る千晃が、小さく感嘆の声を上げた。
よかったな千晃、念願の女子だぞ。
クラスの中でも、男子が主に彼女の容姿に触れていた。それくらい、彼女は顔もスタイルも整っている。
だがそれよりも、彼女の耳に当てられたヘッドホンの方が物議になっていた。
真「なんでヘッドホン…?あれじゃ、近寄るなって言うてるようなもんやないか」
千晃の横で、真司郎がポツリと呟いた。確かにその通りだ。
浦「宇野、自己紹介」
ヘッドホンはしててもちゃんと人の声は聞こえているようで、浦ちゃんに促された彼女はゆっくり口を開いた。
実「宇野…実彩子です」
彼女…宇野実彩子と名乗ったその少女は、それっきり口を閉ざしてしまった。
緊張してるのかな?
…否、違う、あれは俺らを警戒して見ている目だ。
直「宇野、もうちょっと何か無いのか?趣味とか前に居た所とか…」
実「ありません…席、何処ですか」
見かねた浦ちゃんが慌ててしたフォローも、ばっさりと切られてしまった。
直「あ、ああえっと…そうだ、西島の隣!あの空いてる席」
実「…分かりました」
それだけ言って、彼女はスタスタとこちらに向かって歩いてきた。
…おい、ヤバイってこれ。
こんな無愛想で取っつきにくそうな子だとは思わなかったよ。まあ、俺や真司郎の顔見ても目の色変えない様子を見るとその辺(何となく察して欲しい)は大丈夫そうだけど…
なんでこの子が、俺の夢に?
直「ま、まあみんな、これから仲良くしてやってくれな!」
浦ちゃんがそう言うも、クラスの反応はイマイチだった。
『何あれ無愛想ー』
『てか何でヘッドホン?』
『西島くんにもあの態度だったらマジで許せないわー』
そんな声があちこちから聞こえてきた。聞こえているのか聞こえていないのか、彼女ーー宇野さんは表情一つ変えずに俺の隣の席に着いた。
とりあえず…話しかけてみよう!
夢にも出てきたくらいだから、気になるし…
隆「宇野さん…だっけ?俺、西島隆弘。よろしくねっ」
小声で自己紹介をした。
彼女は一瞬こちらを見たが、ニコリともしないまますぐに目線を落としてしまった。
聴こえてる…よね?
まさか無視された?いや、一瞬こっち見たし無視じゃない、うん見てる(無視されてると肯定したくない人)。
でも…少しだけ、何だか哀しそうな目をしていたように俺には見えた。
すると、前の席の日高がこそっと耳打ちしてきた。
光『なあなあ…隣の転校生の子、なんか大丈夫?』
隆『いや、俺もよく分かんないけど…緊張してるのかな?』
光『あー…なるほど』
西島的見解に納得してくれたらしい日高は、微妙な表情を浮かべながら前を向いた。
よし、HRが終わったらもう一回宇野さんに話しかけてみよう!
本当に緊張してるだけかもしれないし。
…なんて言ってたら、いつの間にかHRが終わっていた。
生徒たちが席を立ち上がり始める中、俺は宇野さんの方を向いた。
隆「あ、俺のことはにっしーって呼んで!」
実「……いよ」
隆「えっ?」
今、宇野さんが何か喋った気がしたけど、周りに掻き消されて聞こえなかった。
隆「えっと…」
実「私なんかに…関わらない方がいいよ」
宇野さんは、そう言うとスッと席を立って教室を出て行ってしまった。
光「…何あの人」
光啓が呟いたとき、千晃と真司郎もこちらにやって来た。
千「あれ、折角あの子に話しかけようと思ったのに。にっしー何かしちゃったの?」
真「でもあの子俺は怖いと思ったわ…」
秀「何かワケありなんじゃないかな」
思い思いに言い合うみんなの横で俺はというと、その間しばらく宇野さんが出て行ったドアの方を呆然と眺めていた。
千「にっしー?大丈夫ー?」
かなりぼーっとしていたようで、千晃に心配までされた。
隆「えっ、ああ。ははっ…」
光「にっしま、振られたからってあいつのことは気にしない方がいいぞ」
隆「いや、別に振られてないし」
うん、気にしない気にしない。
関わらないで、って言われたしな。
でも…君のこと、なんか気になる。
そう思っていると、授業開始のチャイムが鳴った。
宇野さんは、チャイムが鳴っても教室に戻って来ることは無かった。