その頃…
side 直也
放課後。結局屋上で1日を過ごしたらしい宇野の元へ、様子を見に行くことにした。
きっと彼女のことだから屋上だろう、と思って屋上に足を運んだ。
扉を開けると、帰り支度をしていたらしい彼女を見つけた。
実「…直也くん」
直「よっ」
彼女も、俺の姿を認めると支度の手を止めてベンチに座った。
俺も、その横に腰掛けた。
直「久しぶり」
実「何年振りだっけ?」
直「あん時お前らはまだ小1だったから…」
実「もう10年なのね」
直「あと、宇野が中1の時に教育実習
だった」
実「そうだね、じゃあ3年振りか」
宇野はそう言って、キュッと唇を結んだ。
直「俺も驚いたよ。こんな時期に転校生なんて、よっぽどの問題児じゃないかってハラハラしながら名前見たら、実彩子だったからさ」
実「あーよかった私で、って思った?」
直「いいや、一番の問題児が来たと思った」
実「ひっど。そこはお世辞でも知り合いでよかった、って思うところでしょ」
宇野の言葉に、2人で笑った。
…彼女の心からの笑顔も、久しぶりに見た気がする。
直「宇野、お前…ちゃんと笑えるようになったんだな」
実「さあ?直也くんだからじゃないの?」
それから、少しだけ寂しそうに言った。
実「私は、直也くんのこと…命の恩人だと思ってるから」
直「いや、あんなもんたまたまだよ」
実「違う、そっちじゃなくて…中1のとき」
直「あれは…変な胸騒ぎがして」
実「ううん、直也くんが来なかったらきっと私、死んでた」
直「死んでたなんて大袈裟な」
実「ほんとに。私、あの時以外に死にそうって思った瞬間無いもん」
「でもね」と言って、宇野は制服の上を捲った。
彼女の腹部には、まだ”あの時”の傷が痛々しく残っていた。
実「逆に、この傷がある内はどんなことがあっても耐えられるようになったの」
直「宇野…」
実「友達だと思ってた人に殺されかけるって、これ以上の恐怖はこの先無いでしょ」
だって、友達なんて自分から作ろうとは思わないもの。
宇野は、きっぱりとそう言った。
実「だからね、いいの。私は1人でも大丈夫。…私に直也くんの”ココロの声”は聴こえないけど、私の何を心配してるかなんて、大体分かるから」
俺はフッと息をついた。
確かに俺は、宇野に友人の1人でも出来れば、と考えていた。勿論、世の中には友達をわざと作らなかったり、あえて人を寄せ付けなかったりする人もいる。それはそれでいいのだ。
何故俺が彼女を心配しているのかと言うと…答えは単純。寂しそうだから。
過去のトラウマがあって友達が作れないだけで、本心では何でも話せる人がいた方が自分的にも良い、というのは彼女も分かっているはずなのだ。
特に、人にはない特殊なチカラを持つ彼女なら、尚更。
…だが、不幸にも宇野はその”チカラ”の所為でトラウマを作ってしまい、ココロを閉ざしてしまった。
直「…授業にも出られないのか?」
実「たくさん人のいる中でこれ取られたりでもしたら…って考えると、怖くて」
そう言ってヘッドホンに手を当てた宇野は、酷く辛そうな顔をした。
直「俺が担任だからまあ何とかするけど…そう長くはもたないぞ」
実「わかってる。分かってるけど…」
彼女は呟いた。
「やっぱり怖いの」と。
宇野の時間は、あの、中1の時から止まっている。
実「…ごめん直也くん、私そろそろ帰るね」
宇野はそう言ってベンチを立った。
直「ああ。気を付けて帰れよ」
実「うん。じゃあ」
片手を小さく上げて、宇野は屋上から去っていった。
この時計を動かせるのは…きっとあいつらしかいない。
彼女の後ろ姿を見つめながら、俺はそう確信した。