HANDs
side Takahiro
隆「待てーっ!!」
俺ーー西島隆弘は、住宅街の路地を全力疾走しながら、50メートル程先にある背中に向かってありったけの声で叫んだ。
背中の主は、こちらをチラチラと見ながらも、一向に止まる気配が無い。
そう…俺は今まさに、容疑者を追っているところなのだ!
隆「実彩子!向こう回れ!」
実「了解!」
相棒でありーーそして幼馴染でもある実彩子に指示すると、彼女は短く答えて右の路地へと入って行った。そして俺はまた、容疑者である男の背中を追った。
俺と男との距離は徐々に縮まっている。余裕かと思いきや相手も足が速く、なかなか捕まえるまでには至らない。
隆(クソッ…逃げ足の速い奴だ…!)
追いかけている背中を睨みつけるように見据えながら追いかけていた時だったーー
俺だって、足に自信が無いわけではないけど、いやむしろ自信はあるのだが…と思っていると、急に横から何かが飛んできて目の前の背中が消えた。
隆「えっ!?」
何事かと思って見ると、階段を数十段降りた先の踊り場で実彩子と男が倒れていた。
隆「実彩子!」
駆け寄ろうとすると、突然男が起き上がってポケットからナイフを取り出した。
男「動くな!」
そう叫んで、すぐ横にいた実彩子の首筋に手にしていたナイフを当てた。
男「動いたらこいつ、殺すからな!」
ああ、来ましたかご定番の…
って違う!
どうするんだよ!実彩子の一大事、絶体絶命!
…ダメだ、なんて言えばいいのか分からない。
結局何もいい作戦が思い付かないので、一カバチかで行くことにした。
一発勝負。
俺は、目の前の階段を眺めた。
階段は30段程…これなら行ける!
犯人はまだ、俺の企みに気が付いていないようだ。
ただ、実彩子は俺の考えている事を分かっている…正確には分かってしまったようで、不安と困惑の混ざった顔で俺を見ていた。「やめなよ」と目で訴えているのが分かる。
いつの間にか、階段の下からも二課の仲間が来ていて、踊り場にいる犯人に向かって何やら叫んでいた。
…見てろよっ!!そして待ってろよ、実彩子!
隆「うりゃああああっ!!」
両足に力を込めた。
そして迷いなく男に向かって、階段の一番上から30段下の踊り場まで一気に飛び降りた。
男「ぎゃあっ!」
まさか階段の上から飛び降りて来るとは想像しなかったのであろう、間抜けな男の悲鳴と、ナイフが地面に落ちる音がした。
踊り場に突っ込んだ俺は、すぐさま男の手首を掴み、地面にはっ倒して手錠を掛けた。
隆「10時24分、確保!」
その時、横から声がした。
実「ちょっと!誰が突っ込んで来いって言ったのよ!?」
実彩子だ。俺は負けじと言い返した。
隆「仕方ねーだろ、これがしか思いつかなかったんだからよっ」
実「もっと他にあったでしょうが!大体、この高さ飛び降りようなんてバカ、そうそう居ないよ!?」
隆「誰がバカだ!」
実彩子と俺が言い合っていると、スーツ姿の刑事が何人かやって来て犯人である男を連行して行き、更に階段の下から「おーい、大丈夫かー?」と先輩刑事の声が聞こえてきた。
実「私は大丈夫です」
隆「俺も全然、平気です」
「2人とも、今回はお手柄だったな。…それにしても、西島はまた一個伝説作ったな」
隆「いやこんなの、ビルに比べたら全然ちょろいモンですよ(笑)」
「そうだ、西島にはなんせとっておきの伝説があるからな!(笑)」
実「毎回このバカがご心配をお掛けしてすみません」
隆「バカとはなんだ!」
「宇野ちゃんも、西島の子守は大変だな(笑)」
実「ほんっと手の掛かる奴で」
隆「さっきから俺に失礼なんだけど」
実「だって本当に大変だもん。目離すとすぐどっか行くし、変なことばっかするし」
隆「まるで子供みたいだな」
実「全部あんたの話だから!」
「まあまあ、夫婦喧嘩はほどほどにしとけよ(笑)」
隆実「「誰がこんな奴と!!…えっ?」」
先輩に返した言葉が全く実彩子と同じで見事にハモってしまった。
思わず2人で顔を見合わせる。
「相変わらず仲良いなっ」
隆「別に、そんなんじゃないっすから」
慌てて返すと、先輩は笑って「はいはい」と適当に流した。
それから、先輩は制服警官の人に呼ばれ、何処かへと向かっていった。
俺は、何だか気が抜けて階段に腰掛けた。
隆「はぁ…一件落着、ってか」
実「隆弘が飛び降りてきた時は本当にどうしようかと思ったけどねっ」
隆「つーか、お前だって突っ込んでったのに変わりは無いだろ?」
実「突っ込んでないし!普通に階段降りようとして…その…」
隆「まさか落ちた?(笑)」
実「違う。足が勝手に滑った」
隆「つまり階段から落ちましたと」
実「すいませんでしたぁっ!」
半ばヤケクソに言って、プイッとそっぽを向く実彩子。
ほんと、昔からこういう所は全然変わらない。
隆「怒ってないよ」
実「違う。バカにしてんでしょっ」
隆「半分当たりで半分ハズレ」
実「ほら、やっぱりバカにしてる!」
隆「まあまあ、とにかく結果オーライってことで!」
実「こら!勝手に話纏めんなしっ!」
隆「俺らも帰ろーぜ!」
実「ちょっ、置いてかないでよ!」
俺はそう言って立ち上がり、実彩子の声を背で受けながら階段を上り始めた。その時…
実「痛っ…」
小さくそんな声が聞こえて振り返ると、実彩子が階段の途中で蹲っていた。
隆「どうした?」
今上ってきた階段を少し降りて実彩子に尋ねた。
実彩子は、微かに顔を顰めながらゆるゆると首を横に振った。
実「ううん…何でもない!」
隆「怪我…してるのか?」
そう訊くと一瞬だけ表情を変えたが、すぐにまた首を振った。
実「ううん、全然っ!ほら、行こ?」
無理やり笑顔を作ってそう言って、立ち上がった。
だが、一段上る度に顔を顰めているし、右足を引きずるようにしている…?
隆「やっぱ見せてみ」
実「ちょっ、隆弘…」
実彩子が何か言いかけたのを無視して、裾を捲って足首を見た。
やっぱりな…
腫れてるし、熱持ってる。
俺がジッと見つめると、実彩子は気まずそうに視線を逸らした。
実「これくらい平気」
隆「ダメ!俺おぶってくから」
実「だって迷惑だし…自分で歩けるから」
隆「全然迷惑じゃないけど?それに、怪我してるのに歩かせるわけにいかないからさ」
実「でも…」
隆「でももだっても無し!ほら」
実「じゃあ…お願いしようかな?」
隆「最初からそう言えばいいのに」
程なくして、実彩子の身体が俺の背中に乗っかるのが分かった。
…ってか軽っ!
いつもあんなに食べるくせに!
そりゃ、細い方だとは思っているけど、いざこうしてみると驚くものなんだな…と改めて感じた。
実「ごめん…大丈夫?重たいでしょ?」
隆「いや全然!」
これでへばってたら俺は一体何なんだ(笑)
隆「むしろ軽すぎだって、もっと食べないとダメだよ」
…とは言ってみるものの、実は俺と同じくらい食べてたりする。
実「そうかな?」
隆「うん、びっくりしたよ」
実「そっか」
実彩子がそう言ったきり、いつも2人の間にはないような、妙な沈黙が流れた。
そういえば…俺と実彩子がバディになったのって、いつ頃だったっけか。
もちろん、配属されたばかりの頃は俺らはバディではなかった。それぞれ別の先輩刑事がバディだった。
だが、ある日突然課長に「2人でやってみろ」と言われ…それからだ。
そんなことを思い返しながら、黙ったままの状態が数分続いた時、突然実彩子がぽつりと言った。
実「…私、夢を見るの」
隆「えっ?」
実「”あの日”のこと…夢で、見るの」
少し寂し気な声で、そう言った。
”あの日”…。
忘れもしない、”あの日”…。
俺もここ連日、それこそ毎日のようにその夢を見る。
隆「俺も…ずっとその夢を見るんだ」
実「隆弘も…なの?」
隆「ああ…」
一瞬の間の後、実彩子が言った。
実「もしかして…また、あんなことが起きるのかな…怖いよ…」
不安げに、小さな声でそう言う実彩子に、「大丈夫」と言った。
隆「…約束しただろ?絶対2人で捕まえるって。もう、あんなことは起こさせない、って…」
実「…そうだね…もう、誰にも同じ思いはさせたく無いから」
隆「いざとなったら、俺が守ってやるから」
実彩子は知らないけど…最期に、実彩子の父さんに言われたんだ。
『実彩子を…頼む』って。
俺は、その手を強く握った。
あの感覚は、今でも覚えている。
実「うん…ありがとっ」
おぶっているせいで表情は見えないが、声色からして実彩子はそう言って小さく笑ったようだ。
何だかくすぐったくなった。
変な、気持ち。
だが、その様子を遠くから見ている人がいるなど、この時の俺らはまだ気づかなかった…。
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新しく、刑事もの書き始めました。
合わせてお付き合い頂けると嬉しいですฅ(*°ω°*ฅ)*
この辺は前から書いてあったので、更新早いです(笑)