嫁の聞いたことのないような声で
「パパ、パパ」
尋常じゃないほどのイヤな予感。
「どーした!!何があった!!!」
まさか、ウチの子が?って思うようなことだった。
「(上の子)が。連れ去られそうになった。やっと見つかって。怖かった。帰ってこないんだもん」
泣きながら話す嫁の言葉に、息子の命はあることだけは分かった。
「(上の子)は!無事なんだな?!ケガとかないのか!」
「うん、大丈夫。大丈夫だった。ずっと人の家に隠れてたんだって。」
親にとって子供のことは自分以上だ。
ウチの長男は寄り道なんて絶対しない。
帰ってきてから行き先を必ず行って遊びに行くし、時間もきっちり守る。
待っても待っても帰ってこなくて。
通学路見に行っても誰もいなくて。
学校に電話したら通常とおり学校出てるって言われて。
それでもいなくて。
下校時間から1時間過ぎても見つからず、
仕事に出てたJに電話して帰ってきてもらった。
学校と警察と通学路で大声で探したら。
やっと、やっと真っ暗の中、ランドセルの反射材が光って泣いて人ん家の前にいる我が子を見つけた。
怖い思いはしたけど、見つかって。
ケガもせず。無事だった。
Jも泣き崩れ上の子を抱きしめながら、良かった、良かったなって。
警察と先生と話をしてどんな人だったかって、車の色とか覚えてること全部話してって。
上の子は覚えてること全部話したって。
自分の言葉で伝えてたって。
オバサンだったって言ってたよ、犯人。
シルバーの車で声かけてきて上の子曲がった所から1人になっちゃうからそこで声かけられたって。
歩く先を車で斜めに止まってきて、車避けるとまた着いてきて。
車乗って遊びに行こうってさ。
お金あるから何でも買ってやるって言われて車、降りてきたから走って逃げたんだって。
怖くて大声も出せず。
防犯ブザー鳴らしたら自分の居場所バレると思って怖くて鳴らせなかったって。
恐怖の中、そんなこと必死に考えてたなんて。
人の家に入って壁にくっついて息殺して暗くなってもジッとしてて。
小学生の子が自分の身を守るために必死にできることは隠れてることしかなかった。
よく、逃げ切れた。
本当に頑張って走ったんだと思う。
嫁はパニック
「不審者?誘拐未遂?何なのよ!何でこんなことするんだと思う?この子ずっと怖くて隠れてたのよ?どんな気持ちだったと思う?犯人は?誰!」
いつも冷静な嫁が泣いて取り乱してオレの声も聞こえてない。
電話切ってJにかけた。
「アイツ、ダメなんだよ。子供のことだろ。ショック過ぎて話もメチャクチヤ。でも、オレも勘弁!子供のことは!よかったよ。見つかって、マジで。子供らに何かあったらお前に何て言ったらいーんだと思って。」
「ありがとう。見つけてくれて。嫁だけじゃ無理だっただろ、精神的に。Jがいてくれて助かった。本当に感謝してる。」
長男に代われるならって、代わってもらった。
「大丈夫だったか。良かった。お前が頑張って逃げてくれて。恐かったよな。」
オレは涙でこれ以上、何て言ってやればいいのか分からなかった。
長男は
「あのオバサン、いろんなとこで声かけてるみたいだよ。警察の人が言ってた。」
「そうか、とにかく大丈夫なのか?ごめんな、パパ、ウチにいてやれなくて。こんな大変なことがあったのに。ごめんな。」
だけど長男はハッキリ言ったんだ。
「大丈夫だよ、パパ。恐かったけどママが絶対探しに来てくれると思ってたから。」
「そうか。本当によかったな。」
子供は心配掛けないように頑張って、泣きたくても泣かなくて。
しっかり自分の足で立ってる。
母親を信じて、必ず自分を見つけてくれると信じて待ってた。
こんなにも強い子に育って、親子の信頼関係が強くて、そのことに本当に胸がいっぱいになった。
Jは長男は泣いたけど、泣いた後はいつもの長男に戻ってたって。
オレはショックと怖さでまだ落ち着かない。
犯人が誰なのかより、長男が生きてることに本当に安心した。