Jから電話があった。
「オレが交代しているから帰れって言ったらアイツがどーしても残りたいって言うから病院に置いてきた」
「様子はどうだ?」
「変わらずだよ。アイツずーっと社長の手さすって話しかけてた。オレは風呂入ってちょっと休んでてって。」
「嫁、大丈夫かな。」
「オレよりも社長の奥さんのこと気にしてたよ。誰かがいたら心強いだろうって。休ませてやりたいって。」
「ありがたいよな、オレらじゃそんなことまで気が付かないもんな。」
「男はや弱い、そーゆーとこ。でもなアイツが言ってた。こんなに手温かいんだもん、大丈夫よって。」
「温かいからか。また勘が働いてんのかな。」
「お前を育ててくれた人だからこんなことで負けたりしないわよって。またいつもみたいに、どーだ!稼いでるか!?って聞けるようになるわよってアイツ笑って言ってた。」
「そうだよな。社長、強いから大丈夫だよなってオレらも信じてなきゃな。」
「あのさ、こんな時に言っていーのか分かんないんだけど、アイツ大丈夫なのかな。昔のこと思い出したりしねーかな。」
「あー。そうだよな。」
オレ達は人の生き死にに関わる場所に一番近づけちゃいけない嫁を置いてきた。
大切な人を救えず失ってきた嫁は今、大丈夫なのかなって。
けど聞けないだろ?
オレらは嫁の親友も前の男が何で死んだのかを他から聞いて知ってるんだから。
Jは聞いてみるって言ったけど、オレは聞くことで逆に思い出させるんじゃないかって意見が割れた。
社長の元で一緒に働いてた奴からも連絡がきたんだけど嫁がつきっきりで笑って一生懸命話しかけるって言ってた。
まるで話が通じてるかのように。
オレらは大声出して呼びかけるか、何も言えなくて見てるだけしかできないのに。
あの場で目を開けることだけを信じて話すことなんてできない。
Jは嫁が心配だから早めに病院に向かうと言ってたけど。
心配だから嫁に電話した。
きっと病室の中だからすぐ電話には気付けないと思ったけど。
やっとかかってきて。
「ごめんな、ずっと付いててくれてるんだって?」
「いーのよ、私がいたいだけだから。」
「どーだ?何か変わりはあったか?」
「まだない。けど奥さんがね、気落としてるから、誰かがいれば気張っていられるかなって。」
「突然だもんな、気落とすよな。」
「それもそうなんだけど、社長倒れてからかなり時間が経ってから発見したんだって。奥さんがバスツアーでいない間に。」
「一緒に行かなかったのか?」
「いつも一緒に行ってたのに、たまたま今回、もう年だから長時間バスに乗るの疲れたって言ったんだって。」
「年だからって、オレの親父とあんまり変わらないだろ。」
「だから、今思えば体調悪かったのかなって。奥さんがツアー行かなきゃよかったって悔やんでるの。」
「そうだったのか。でもあんまり自分を責めて欲しくないよな。」
「そう。こんな時は女同士の方が奥さんも気が楽かなと思って私が付いててあげたいの。」
「お前、体、大丈夫か?もう少ししたらJが向かうから無理しないでくれよ。」
「分かってる。私まで体調崩したら付いててあげられなくなるもんね。」
嫁は続けて言った。
「でもきっと大丈夫よ。パパを育てたぐらい芯の強い社長だから、絶対負けないわよ。今は少し休んでるだけ。だから必ず目を覚ますって信じて待っててあげよう。」
嫁の言葉が身にしみた。
とにかく今、嫁とJに任せるしかできないから、オレは明日までひたすら願い続けてます。
社長!聞こえてるか!
オレ達は待ってるからな!!