2020年の春、
なぜだか無性に
土に触れたくなった。
ゴールデンウィーク、
庭に野菜の種を撒いた。
コロナ禍でどこにも
行けなかったあの日々、
庭でしゃがみ込み、
土に手をのばし、
土をほぐした。
ふっと土は、
懐かしい匂いが立ち上った。
小さい頃、
北海道で嗅いだ匂い
夏、
胸に小さな「コロコロ」を
胸に見つけた。
コロコロと言うより
周りの皮膚、組織を
歪め、
小さな丘を形成していた
秋、
病院で――乳がんと
告げられた
奇しくも、私の
誕生日だった。
人は、死が近づくと、
土に帰ろうとすると言う。
帰ると言うのか、
土を求める
あの春、
私は無意識のうちに
いちばん、
死に近づいて
いたのかもしれない。