このテーマ・ジャンルには、「本や読書に関する格言」や「お話」「逸話」をまとめていきます。来年度担当の「読書と豊かな人間性」ネタです。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/789_14547.html
の青空文庫に「吾輩は猫である」(夏目漱石)があります。
私は、この樽金の話が大好きです。長いけど、引用します。
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「(引用者前略)・・・、この間などは貴様は学者の妻(さい)にも似合わん、毫(ごう)も書籍(しょじゃく)の価値を解しておらん、昔(むか)し羅馬(ローマ)にこう云う話しがある。後学のため聞いておけと云うんです」
「そりゃ面白い、どんな話しですか」
迷亭は乗気になる。細君に同情を表しているというよりむしろ好奇心に駆(か)られている。
「何んでも昔し羅馬(ローマ)に樽金(たるきん)とか云う王様があって……」
「樽金(たるきん)? 樽金はちと妙ですぜ」
「私は唐人(とうじん)の名なんかむずかしくて覚えられませんわ。何でも七代目なんだそうです」
「なるほど七代目樽金は妙ですな。ふんその七代目樽金がどうかしましたかい」
「あら、あなたまで冷かしては立つ瀬がありませんわ。知っていらっしゃるなら教えて下さればいいじゃありませんか、人の悪い」
と、細君は迷亭へ食って掛る。
「何冷かすなんて、そんな人の悪い事をする僕じゃない。ただ七代目樽金は振(ふる)ってると思ってね……ええお待ちなさいよ羅馬(ローマ)の七代目の王様ですね、こうっとたしかには覚えていないがタークイン・ゼ・プラウドの事でしょう。まあ誰でもいい、その王様がどうしました」
「その王様の所へ一人の女が本を九冊持って来て買ってくれないかと云ったんだそうです」
「なるほど」
「王様がいくらなら売るといって聞いたら大変な高い事を云うんですって、あまり高いもんだから少し負けないかと云うとその女がいきなり九冊の内の三冊を火にくべて焚(や)いてしまったそうです」
「惜しい事をしましたな」
「その本の内には予言か何かほかで見られない事が書いてあるんですって」
「へえー」
「王様は九冊が六冊になったから少しは価(ね)も減ったろうと思って六冊でいくらだと聞くと、やはり元の通り一文も引かないそうです、それは乱暴だと云うと、その女はまた三冊をとって火にくべたそうです。王様はまだ未練があったと見えて、余った三冊をいくらで売ると聞くと、やはり九冊分のねだんをくれと云うそうです。九冊が六冊になり、六冊が三冊になっても代価は、元の通り一厘も引かない、それを引かせようとすると、残ってる三冊も火にくべるかも知れないので、王様はとうとう高い御金を出して焚(や)け余(あま)りの三冊を買ったんですって……どうだこの話しで少しは書物のありがた味(み)が分ったろう、どうだと力味(りき)むのですけれど、私にゃ何がありがたいんだか、まあ分りませんね」
と細君は一家の見識を立てて迷亭の返答を促(うな)がす。
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これが本の価値です(^_^)/
ありがたい、ありがたい。
みなさんは、「何がありがたい」のか、「分かりま」すか(^_^)
一冊に本で、もし人生がかわるとしたら、それはお金にかえられない。この話の解説は、昔、森本哲郎さんがNHK文化講演会で話していたのを聞いたことがあります。その後、『読書への旅』だったかな、森本さんが文章として書かれているのを読んだことがあります。
(文責:穴見嘉秀(あなみ よしひで)@九州大谷短期大学表現学科情報司書フィールド助教授 a73@nifty.com )