〇タイトル

track2 Baptism of Fire

第一巻 p61~85

 

〇資料

扉絵(p62)

 

 

〇分析

★p61~62
・バスに乗るガンマとエルウッド。二人はエルウッドの故郷のウイスター州南部から同州ウォルトンヴィルへ向かっている。track1(第一巻p11~12)にあったように「死者の指輪を全部で12個集めればゾンビパウダーが手に入る」ということが確認されている。ゾンビパウダーは第一巻p5で「死者を蘇らせ、生者を不死にする悪魔の秘薬」と説明されている。
 
・エルウッドは「そういえばあんたはどうしてゾンビパウダーを?やっぱりおれみたいに誰か生き返らせたい人が?」と訊くが、ガンマは「バカ言うな。俺はゾンビパウダーを使って不死の体を手に入れるんだ」と応える。
 
・単行本のタイトルはBaptism of Fireだが、ジャンプ掲載時は「洗礼」となっていたという情報がある。ソースをご存じの方がいらっしゃれば、私の方までお願い致します。
 
Baptism of Fireは「炎の洗礼」という意味。炎はガンマを象徴的に指している。このタイトルの元ネタは聖書由来の英語の慣用句に由来する。聖書用語の場合、Baptism by fireともいう。
 
 
★p63
・二人は一晩かけて目的地ウォルトンヴィルに到着し、ホテルに入る。時刻は午後0時15分。
 
・ガンマがエルウッドにゾンビパウダーの解説をしている。ガンマの解説は抽象度が高く難解だが、簡潔に言えば以下になるだろう。
「ゾンビパウダーは命の薬」→投与された者に生命を授けるという意味か。
「生を齎す」→死者に振りかけると蘇生するのはゾンビパウダーそのものが一種の生命体だからか。
 
★p64
解説が難解なことをガンマは察した。3コマ目のエルウッドの顔や4コマ目のガンマの顔から分かるように初期の久保はコミカルな絵柄の時は口を描かない場合が多い。前ページの4コマ目・5コマ目のエルウッドの顔も同様である。
 
★p65
・ガンマはエルウッドにホテルの室内で待機するよう指示するが、エルウッドは子ども扱いされたと感じてムキになり、無理やりガンマに同行することになる。2コマ目でガンマの吹き出し内に「しまった」とあるのは、ガンマがエルウッドに「コドモ」と言ってしまったがために、エルウッドをムキにさせてしまったことを後悔したため。
 
・CD屋の名前「CLASS-6」はclassicsの諧謔。英単語classicは形容詞や名詞として使われる。
 
★p66
3コマ目に敵キャラ2人(p168によれば、ダニエルとディラン)が描かれている。5コマ目にはエドヴァルド・グリーグといったクラシック作曲家の名前も見受けられる。グリーグは北欧のショパンと言われているが、ショパンは「病弱」で有名だった。もしかしたら作中の病弱なキャラを暗示しているのかもしれない。
 
★p67
・「視聴」とはおそらく「伝言のやり取り」という意味。5コマ目をよく見ると「GAMMA.A 名管弦楽曲集:C.T.スミス指揮 リーンズベリー女…」とある。
 
★p68
ガンマはエルウッドに「ここで待ってろ」と凄みを効かせて指示する。
 
★p69
エルウッドはムキになり、「誰が待つかっての。かえろかえろ」と言う。それを見た敵二人がエルウッドに罠をかける。
 
★p70
敵二人はエルウッドの善意に付け込んでCD屋の裏にエルウッドをおびき寄せる。スミス(ガンマの相棒。姿を現すのはtrack3)はガンマに「―で『指輪』を一つ見つけたよ。8月3日から5日までぼくはグリッジェラーにいるからきみが間に合えばそこで落ち合おう」とメッセージを送る。
 
落ち合う:【動詞】約束をして、一つ所で出合う
 
★p71
・3コマ目の「お仲間さん」は一瞬エルウッドのことだと勘違いしてしまいがちだが、エルウッドはムキになってすぐに待てと言われた場所から離れてしまっているため、スミスを指す。
 
・ガンマは呆れた顔で「バカやろ・・・ここで待ってろと言っただろうが」と呟く。その台詞の「ここで待ってろ」には圏点が付いている。
 
★p72~75
・敵二人はエルウッドを射殺しようとしている。敵二人は自分の仲間がガンマに殺されたことでガンマに恨みを持っているが、ガンマは自分らとまともに戦って勝てる相手ではないので、ガンマの仲間であるエルウッドを殺すことに決めた。エルウッドは「なんだよそれ!?あいつの仲間だから俺を殺す!?それってただの逆恨みじゃないか!ムチャクチャだ!」と抗議するが、敵は「シロートみてえなクチきいてんじゃねぇぞ。仲間が恨まれれば自分も狙われる。自分の買った恨みが仲間の死を招くこともある。それがこの世界の常識だろ」と叫ぶ。
→「この世界」には圏点が付けられている。本作の世界観のモデルとなった2000年代のアメリカ同様、ガンマらの暮らす社会は表社会と裏社会の距離感が近いのだろう。少なくとも現在の日本ほど治安は良好ではない。
 
★p76
ガンマ登場。4コマ目の右側のシルエットはガンマ。
 
★p77~80
ガンマが敵二人を撃破する。p80をよく見るとガンマの刀はジェットの推進力のようなものが使えるとわかる。
 
★p81
4コマ目において、中央のガンマはシリアス、右の敵(ダニエル)は悲鳴を上げながら必死で逃走という状況のなか、左のエルウッドは一人唖然としている。エルウッドだけ微妙に絵柄のムードが合っていない印象を受ける。
 
★p82
ガンマが来るのが僅かでも遅かったらエルウッドは死んでいたという今回の一件。それを軽く流そうとするエルウッドをガンマは責める。1コマ目が急過ぎずノロ過ぎない絶妙な間となっている。
 
p83
エルウッドをたしなめるガンマ。3コマ目の中央部にガンマとエルウッドが描かれているが、よく見ないと見落としてしまいがち。4コマ目に血が見える。
 
p84
ガンマが「俺との旅を続ける限りお前(エルウッド)も命を狙われる。それでも旅を続けるか否か選択するチャンスを与える」とエルウッドに言うのはエルウッドの将来を懸念しているからこそ。
 
p85
急にシリアス展開になりかけたと思ったら突然のギャグ。最後のコマの「俺のサイフを返せ!」「油断も隙も無い」(原文は手書きの片仮名)には笑ってしまった。
 
 
★総評
CD屋や伝言代というのが時代を感じさせる。インターネットがそこまで浸透していなかった当時、自分の好きな音楽を聴きたい場合はCD屋でCDを買うしかなく、相手に極秘のメッセージを送るときも今回のような伝言業者に頼るしかない場合もあったのだろう。ネットの時代に生まれた自分の快適さを感じた。
また、この回を読み、久保のリアリズム精神も感じた。ジャンプ漫画の敵(特に雑魚な敵)キャラは外見や言動で残忍さ・気持ち悪さを前面に出すことによって、「作者が読者側を(そのような悪役を倒す)主人公サイドに感情移入させるための道具」として用いられがちである。しかし、今回の敵(ダニエルとディラン)は犯罪者ではあっても一般市民に性格が近いキャラだといえる。
このような自然さがゾンビパウダー全27話から読み取れると私は考えている。