〇動画

https://www.nicovideo.jp/watch/sm28823545

 

 

〇動画の内容

ゆっくりしていってね!!!系動画。

・配信者(お茶さん)は「いつもはクソ漫画をレビューしているけど、この漫画はそうじゃないよ」と語る。

 

 

〇お茶さんの主張

・この漫画は主人公ガンマをカッコよく演出することに全振りしている。8割そう。

・典型的な俺TUEEEE系漫画。

・この漫画は大人の中二病。

・この漫画をブラッシュアップしたのがBLEACHだが、BLEACHと違って打ち切りになったのは以下の三つが理由。

① 主人公に共感できない(作中で明かされずに終わってしまった設定が多すぎて読者を突き放しすぎ。エルウッドがいらないキャラになっちゃってる。スミスも謎が多すぎ。エルウッドにも申し分程度にバトルシーンは出てくるが、彼のバトルはあってもなくても構わない代物。)

② ストーリーの軸がぶれまくる

③ キャラを扱いきれていない

 

・それらの理由には共通点がある。それは全て「キャラ」に起因する。キャラの深い話はメインキャラにもっとスポットを当てて地盤を固めてからにすべき。

・キャラが生き生きしている。

・ギャグや世界観(作中で舞台となる世界の設定)はよい。

・絵は荒いが、これが連載デビュー作であることを考えるとそこそこの出来。

・背景が白い。これはBLEACH然り。

・エルウッドは失敗キャラ。

・ストーリーが進んでいない。

・BLEACHが好みに合わない人にはお勧めできない漫画だが、BLEACHが好きな人にはお勧め。

・2~4巻には読み切りが載っているけど、久保の良い点が凝縮されている感じ。

・特に3巻収録の『刻魔師 麗』は、もろ90年代って感じだけど、お気に入り。

 

 

 

〇補足

・お茶さんのこの動画からは作品愛が感じられたし、動画の構成の点でも「少しでも視聴者を飽きさせまい」という配慮が伝わってくるものであった。この動画を制作されたお茶さんに拍手を。

 

・動画での解説も概ね妥当というか、一般人の視点に立って作られている。

 

・<この漫画は主人公ガンマをカッコよく演出することに全振りしている。8割そう。>についてだが、普通の漫画家であれば、読者に最も近く感情移入させやすいエルウッドを主人公にしてしまいがちなのを、久保は何と常人離れしたガンマを主人公にしている。事実、単行本のカバーは

1巻 ガンマ

2巻 スミス

3巻 エルウッド

4巻 ウルフィーナ

であり、キャラの重要度も「ガンマ>スミス>エルウッド>ウルフィーナ」の順だと考えられる。

 

・ジャンプ漫画の主人公は落ちこぼれだったり強さが今一つだったりする少年や青年であることが多い。そして、そのような主人公が努力によって成長して最終的に成功をつかむというストーリーになりがちである。しかし、本作の主人公は落ちこぼれキャラではなく既にトップレベルで強いキャラである。そのため、王道のジャンプ漫画の主人公像に慣れすぎた人からすれば、本作は違和感が湧く漫画に感じられたのかもしれない。

 

・「大人の中二病」という表現は的を射ている。世間では中二病は「ださい」「人生の黒歴史」「体と心が大人になるに従って自然と卒業していくもの」とみなされているように思われるが、中二病が根底にある名作は多いと思う。たとえば『AKIRA』や『ツァラトゥストラはかく語り』は中二病という概念が成立する前に発表された作品だが、これらの作品は中二病の雰囲気を感じさせる箇所が随所にある。要するに「洗練された中二病作品」もあれば「洗練されていない中二病作品」もあるということなのだと思う。

 

・ストーリーが進んでいないという指摘も一理ある。本作は、「死者の指輪」を12個集めると完成するゾンビパウダーを主人公たちが追い求めるというテーマなため、死者の指輪を2つしか集められずに連載終了というのは中途半端な印象を与えてしまうのだろう。

 

・<キャラの深い話はメインキャラにもっとスポットを当てて地盤を固めてからにすべき。>という意見についてだが、一般論としてキャラの過去編はメインのストーリーと最も密接に絡んでくるシーンで入れればよいと私は感じる。本作に関して言えば、ウルフィーナのエミリオに関する回想シーンは適切なタイミングだったと筆者は感じる。

 

・ギャグシーンに関してだが、実際のところ本作はクスッと笑えるようなギャグが多い。

 

・日本の漫画は背景に労力をかけたがる傾向にあり、ワンピースやNARUTOに比べると背景がシンプルなコマも確かに少なくない。だが、背景描写に重点をおいたコマでは当然、背景がきめ細かく描かれており、本作の背景の白さが「手抜き」といえるほどなのかは疑問の余地がある。

 

・キャラが生き生きしている。→久保帯人は「まずキャラから漫画のアイデアを考えることが多い」とインタビューで述べている。

 

・ギャグや世界観はよいとあるが、世界観や設定の良さが評価されている同時期の漫画としては他に『BLACK CAT』(矢吹健太朗)がある。

 

・エルウッドは失敗キャラとあるが、動画で述べられているほど、エルウッドの存在感は後半になっても薄くなってはいない。濃すぎず薄すぎずといった塩梅といえる。

 

・BLEACHが好みに合わない人にはお勧めできない漫画だが、BLEACHが好きな人にはお勧め。←至言

 

・2~4巻には読み切りが載っているけど、久保の良い点が凝縮されている感じ。→ストーリーもコンパクトにまとまっており、私は面白いと感じている。

 

・特に3巻収録の『刻魔師 麗』はもろ90年代って感じだけど、お気に入り。→「ワンピースの源流は鳥山明。NARUTOの源流は大友克洋。久保帯人の源流は90年代の漫画同人誌」だと私は考えている。

 

 

 

〇最後に

ゾンビパウダーという知名度が余り高くない漫画を取り上げて、しかも(ある意味で)目の肥えているニコニコ動画の視聴者を楽しませる質の高い動画を制作されたお茶さんに拍手を。

また、「レビューのレビュー」という奇妙な文章を読んで下さった読者の皆様に感謝いたします。