人生を振り返ってみると、「あの人と出会えたのは運だったな」と思うことが、何度もあります。
仕事の上司、同僚、友人、あるいは一瞬だけ関わった人。
そのときは当たり前のように接していた相手でも、離れてみると、
「もう二度と会えないのかもしれない」と思う瞬間があります。
私はこれまで何度か転職をしてきました。
それぞれの職場には、それぞれの文化があり、出会う人もまったく違います。
でも今、管理職という“同じ立場”になって改めて思うのです。
──あのときの上司は、本当にすごかったんだ、と。
そして、あの出会いは“運”であり、もう二度と戻らない“縁”だったのだと。
■ 人の縁は、狙って作れるものではない
人との出会いは、努力や計画ではどうにもならない部分があります。
もちろん「人脈を広げる」「紹介してもらう」といったアクションはできますが、
“心の底から影響を受けるような出会い”は、コントロールできるものではありません。
たまたま同じ部署に配属された、たまたま面接で出会った、たまたま隣の席だった。
その“たまたま”が積み重なって、私たちは人生を形作っています。
「縁」という言葉の深さは、まさにそこにあるんでしょうね。
昔の自分は、良い上司や先輩に出会うことを“当然”だと思っていました。
仕事を教えてもらうのも、叱られるのも、フォローしてもらうのも、日常の一部。
でも社会人を重ね、マネージャーとして部下を育てる立場になった今、
ようやく気づきます──
あのとき自分を支えてくれた上司は、本当に“人として偉大”だったんだ、と。
■ 「同じ立場」になって初めて見える景色
若い頃は、上司の言葉や行動が理解できなかったり、
「なんでそんな厳しく言うんだ」と反発したこともありました。
でも、自分が管理職になり、チームを任されてみると、
あのとき上司が見ていた“全体像”が少しずつ見えてくるのです。
たとえば、こんな経験はありませんか?
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部下を守るために、上に頭を下げたこと
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チームの失敗を自分の責任として引き受けたこと
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誰にも見えないところでフォローをしていたこと
そういう一つひとつが、今なら分かります。
あの人たちは、“上司としての正義”を貫いていたんだと。
部下の私には見えないところで、どれほどのプレッシャーや葛藤を抱えていたのか。
「同じ立場」になって初めて、その苦労の大きさに気づくのです。
そして、ふとした瞬間に思います。
あの人、本当に尊敬できる人だったな、と。
■ 「二度と会えない」と思うと、人の存在が重くなる
転職や異動で離れてしまうと、多くの場合、そのまま二度と会うことはありません。
SNSでつながっていたとしても、リアルな関係は時間とともに薄れていきます。
それが自然なことだと分かっていても、やはり心にぽっかりと穴が開くような寂しさを覚えます。
特に、尊敬していた上司との別れは、不思議なほど記憶に残ります。
一緒に仕事をしていたときは、厳しい言葉に反発したり、
「もう少し自由にやらせてくれればいいのに」と思ったりもした。
でも今になって思えば、その厳しさこそが「育てよう」という愛情の表れだったのだと分かります。
もし今、その人にもう一度会えるなら──
きっと、昔とは違う話ができるでしょう。
感謝の言葉を伝えられるかもしれない。
でも現実には、もう会えない人もいる。
だからこそ、「人の縁」は奇跡のようなものなのだと思います。
■ 「どうすれば」良い縁を大切にできるのか
では、私たちはどうすればこの“縁”を生かし、後悔しないようにできるのでしょうか。
1. 当たり前を当たり前と思わない
今、目の前にいる人も、いつかは別の道を歩むかもしれません。
だからこそ、「今日」という日を大切にする。
会話を丁寧に交わす。感謝を言葉にする。
そうした小さな積み重ねが、“後悔のない縁”につながるのだと思います。
2. 相手の立場で考える
尊敬できる上司がなぜ尊敬されるのか。
それは、相手の立場を理解しようとしてくれるから。
同じマネージャーになって分かったのは、「理解しようとする姿勢」こそが人間関係を深くする鍵だということです。
3. 「去る者を恨まない」こと
人はそれぞれの人生を生きています。
転職、異動、家庭の事情──どんな理由であれ、「離れる」という選択を責めることはできません。
別れを受け入れ、「次のステージでも頑張ってほしい」と心から思える自分でありたい。
それが“縁を育てる”ということではないでしょうか。
4. 時々、思い出す
もう会えなくなった人のことを、ときどき思い出すだけでもいい。
ふとした瞬間に、「あの人ならどう判断するかな」と考えてみる。
その思考の中で、相手は生き続けています。
人との縁は、形がなくなっても、心の中で続いていくものだから。
■ 尊敬する人が、自分の中に生きている
私は今、自分の部下たちに何かを伝えるとき、
ふと、かつての上司の言葉や表情がよぎることがあります。
「焦るな、方向性を見失うな」
「お前が成長すれば、チームも変わる」
「結果だけじゃなく、過程を見ろ」
その一言ひとことが、今も私の背中を押してくれる。
つまり、尊敬する人は、自分の中で生き続けているんです。
会えなくなったとしても、その人が与えてくれた価値観や言葉は、
自分の判断や行動の“指針”になっている。
それこそが、「人の縁」が残してくれる最大の財産ではないでしょうか。
■ 最後に──「また、どこかで」
人との出会いは、本当に運です。
だからこそ、偶然の出会いを「必然」に変えられるように、
その瞬間を丁寧に生きたいと思います。
もし今、あなたの周りに尊敬できる人、学ばせてくれる人がいるなら、
どうか“今”のうちに、その気持ちを言葉にしてみてください。
「あなたに出会えて良かった」と。
それだけで、縁はきっと深くなる。
そして、たとえ離れても、
「また、どこかで会えたら嬉しいですね」と言えるように。
その言葉には、“人を大切にしてきた人”だけが持つ優しさが宿っています。




