「二宮まだ帰んないの?」
いつもならさっさと仕事を終えて
片付けし始める二宮が
まだデスクに座っていた。
「あー俺残業。」
「え?なんか頼まれてる?手伝おっか?」
前に俺が仕事を抱えたとき
二宮が助けてくれた。
俺より仕事が早い二宮だから
役に立つかわからないけれど。
「あんまり優しくすると勘違いするからさ。」
二宮は顎をさすりながら
隣のデスクの俺を横目で見上げる。
「ごめん…。」
「うそうそ。ありがと。大丈夫だから。」
「あ松本。」
「なに?」
「ユリちゃんがさ、俺のこと好きだって。」
「前から言ってるよね。」
「断ったんだよ、あらためて。研修の手配もさせちゃう羽目になっちゃって…さすがにね。」
「そっか…。」
「だけどさ、それでもいいんだってさ。」
「?」
「ほかに好きな人がいようがいまいが。好きって気持ちを止めるのはPCの電源切るみたいにはいかないって。」
今先ほどパソコンの電源をまさに
切った俺の指が止まる。
「そういうの、俺もよくわかるわけよ。同じような立場だからさ。」
二宮が俺を見て眉を下げて微笑む。
カズもこんな顔してたことがあった。
「二宮…、ごめ」
「謝んないでよ。俺はユリちゃんと付き合ってみることにしたからさ。」
「へ??」
「あ〜俺のこと惜しくなった?」
「なんねーよ。」
「その返事ないでしょ。傷つきましたけど。」
「あ、いや、ごめん。」
「ふははっ。うそうそ。付き合うっていうかまぁお友達付き合いね。研修の手配もしてもらったし、堅苦しくない店でいいならお礼にメシでもってだけ。」
「二宮好き嫌い多いもんね。」
「でしょ?そこで引かれる可能性もあると思ってるよ。」
「えっ?!そういう諦めさせようみたいな魂胆なの?」
「違うって。」
「お前の考えてることはわかんないから。」
「それはこっちのセリフだよ。松本って俺に似てる人を好きだったけど今は違うんでしょ?」
「え…?」
「いつも連絡とってんのがどこの誰だか知らないけどさ、いい顔してるよ。なのに前に好きだった人の話で俺を振る松本の気の方が知れないよ?こっちから言わせれば。」
いい顔。
智にもカズにも言われた。
って一体俺どんな顔してるんだろう。
そんなにそんな?
そもそも、いい顔ってなに?
「言っとくと俺にはしないよ、そんな顔。」
「え?」
二宮が手を動かしながら言った。
こちらを見ずに。
「『俺ってどんな顔してんだろ』って顔してるから。」
二宮の気持ちに応えられない自分が
申し訳なくて
だけどカズの代わりなんかじゃなくて
今はもう二宮自身との付き合いを
大事に思ってることを
俺はきちんと伝えられてない。
「…二宮。」
「ほら帰んなよ。」
「あのさっ、」
二宮に期待をさせたなら
謝らないといけないし
これからも仲良くしたいと
そう思ってるけれど
二宮の気持ちがそうでないなら
俺はそれに従うしかない。
「マジでこれ終わらせなきゃいけないからさ。」
「ごめん…。」
それ以上言わせてくれない二宮に
俺もそれ以上言うことが出来ず
鞄を持って立ち上がる。
「松本。」
「ん?」
「今度またメシ行きましょ。同期で仕事の話でもゆっくり。同期で甘えんのもどうかと思うから俺は飲まないけど。」
「二宮…。」
「決まり?」
「うん、わかった…。」
「じゃ、おつかれさん。」
こちらも見ずに
PC画面を見たまま手を動かす
気の無いいつもの二宮の返事。
これが二宮の優しさなんだと思う。
カズとも翔さんとも違う二宮の。
みんなやさしい。
