寒くなってきて、スーパーでまたおでんの具材を買ってしまった。家族にはもう飽きられているのにである。
(調理中の大根)
一番好きなのは大根である。
輪切りにして、皮を厚めに剥き、十字に隠し包丁を入れる。もう一つ必ずやるのが、かどにピーラーを入れ、丸みをつけることである。おでん屋さんでは何処でもそうしているし、家庭でもそうしている家が多いのではないかと思う。
食べられるのならば何でもいい私は、かどの付いたままの大根で料理していたが、丸みをつけた大根を作ってみて、「絶対にこちらだ」と確信した。口当たりが違うのである。味のしみ込んだ柔らかな大根には、かどのあるのは野暮である。くちづけで歯が当たるようなものである。
(昨晩作ったおでん)
おでんの具材で忘れられないものがある。「コロ」と関西では呼んでいた、鯨の脂身である。京都の学生時代に利用していた、京福電車の始発駅の出町柳の駅前にあった「田吾作」というおでん屋さんで出していた。若いおかみさんが、おでんのことを「関東煮」と呼んで、「でも、これは関西でしか出さないものよ」と言って出してくれたものである。京都を離れて以来、一度も食べていないが、プリっとしていて、その独特の舌ざわりは今でもよく憶えている。
(当時の出町柳駅。この手前におでん屋さん「田吾作」があった。ネット写真)
(「コロ」、ネット写真)
食事は一緒にした人との思い出と重なる。「コロ」は最初のデートで食べた。薄暗いカウンターで並んで、おかみさんの話を聞きながらであった。そのときは岩崎宏美がデビューして間もないころで、「ロマンス」がかかっていた。
大根でもう一つ忘れてはならない作業があった。料理番組では、下茹でのときに米のとぎ汁で煮ておくのである。大根がムラなく煮えるし、色が白くなるからという。しかしこちらはやらない。米のとぎ汁を用意するのは手間がかかるし、本来がずぼらなので、米をそのまま入れて、下煮をする。とぎ汁とそのままではどう違うのか、まだこれは分かっていない。