私が神戸の支店で働いていた頃の話だ。

東京の本社から新しく就任した社長が、近畿支社に訪問するついでに何故かウチの支店に立ち寄る事になった。

もともと、社長が地方の単なる支店に立ち寄るなんて事がないので、その話が入った時は上司が絶句して青ざめていた事を覚えている。

しかも、スケジュールの関係か、社長の気まぐれか神戸でランチ💖という話になり、上司が更なる大きなため息をついていた。

しかし、決まったものは仕方がない。

神戸にはオリエンタルホテルという有名なホテルがあり、そこで近畿支社長や支店長のお偉いさん方が会食するという話になった。

それぞれの秘書の方とともに、私も事務方として同行したのだが時間が時間なので同じ時間にお昼を済ませておくようにという指示があった。

どこかにランチをしに行く時間はないと判断、私達は最善の方法として、同じオリエンタルホテルのレストランでカレー🍛を注文した。

もちろん、時間がかからないと思ったからだ。

ところが…である。

20分たっても水しか出てこない。

はじめは、ホテルの窓からの景色を眺めて歓声をあげていた私達だが、さすがに心配になってきた。

大阪生まれ大阪育ちの私は外食に対して厳しい。美味い、早い、安いでなければ大阪では淘汰される。特にせっかちな人が多い大阪で20分も水だけしか出てこないなどというのは、怒号が飛ぶレベルなのだ。しかし、ここはお洒落な神戸の中でも更に上品なホテルのレストランだ。さすがにここで何かを言おうものならイチャモンをつけていると思われるだろう。私はイライラしながら時計を睨みつけていたのだが、しばらくするとしずしずと私たちの所に何かが運ばれてきた。

【ついにきたか⁉️】と思ったのも束の間、それはスプーンとフォークとつけ合わせのラッキョや福神漬だけだった。

「すみません‼️カレーまだですか?急いでるんですけど」

本社や支社の秘書の人を差し置いて、私は思わず運んできた人に声をかけてしまった。

声をかけられた人は、ビックリした顔をしたもののすぐに「申し訳ございません。もう少々お待ちください。」と美しいおじきで返された。そしてカレーがすぐに来たかというと来ず、更に10分後にカレーとご飯が別々に私たちの前に置かれたのだった。

実はオリエンタルホテルはカレーが有名だと知ったのはその後だ。それがどんなに美味しいカレーだったか私は記憶にない。

少しずつかけられるように小さなお玉がついたカレーを、容器から直接一気にライスの上にドバドバかけ味わう暇もなく私達はカレーを飲みくだしたのだから。

仕事でなく、休みの時に一回オリエンタルホテルのカレーをゆっくり味わいたいなぁと思っていたが、その後すぐに私に京都への転勤命令が下り、その機会は今も訪れていない。