我が社の定期の人事異動は4月1日なのだが、その年は珍しく支店長はじめ管理者がごっそり変わった年だった。私は総務部なので、支店長や総務部長が異動するとなると最初の一週間というのは、それこそ色んなスケジュールが目白押しとなりバタバタする。そんな中、異動してきた総務部長は芸能人顔負けのルックスと爽やかな挨拶で私達の心を鷲掴みにした。

「今度の総務部長、カッコいい上に優しそうだよね。良かったね。」

と私達は分刻みのスケジュールをこなしつつヒソヒソと話をしていた。

ところが、そのカッコいい総務部長の様子が日を追うごとにおかしくなっていった。最初こそ、人事異動のバタバタて疲れているのだと思ったが、目がうつろでゴホゴホと咳き込む段階にいたって全員が(もしかして…?)と疑いの目をむけていた。

今のようにマスクがスタンダードのご時世ではない。全員がノーガードのままだった。私達はそう思いながらもまだ人間関係もできていない新しい上司に大丈夫ですか?の声をかけることすら出来ずにいたが、ついに潔癖症のU子がキレて総務部長に詰め寄った。

「病院へ行ってください‼️もしインフルエンザだったらどうするんですか⁉️迷惑です‼️」

事務所内が緊迫感に包まれる中、総務部長は目の前の病院へ行き、やはりインフルエンザの診断が下ったのだった。ドナドナのようにすごすごと、支店長へその旨の報告に総務部長が入って2分。支店長がババーンと部屋から走り出てきて

「今すぐ窓を全部開けろ‼️換気や‼️手を洗ってうがいせえ‼️」

と怒鳴った。

カッコよく優しい総務部長は、病原菌🦠扱いとなり、あの時はホンマにショックやったと10年たつ今でも語り草となっているのだった、